永久保貴一『F/E/A/R〜恐怖という名のコミック〜』白泉社 2001年

 それぞれ「前中後編」あるいは「前後編」よりなる3編の中編を収録しています。

「F/E/A/R〜恐怖という名のコミック〜」
 “私”永久保貴一が,編集者との打ち合わせで,「おいらん淵」に取材に行こうと,つい口を滑らせたことから…
 いわゆる「本当にあった怖い話」系の作品です。前にも何度か書いていますが,わたしは「実話怪談」なるものは,さほど好きではありません(理由はこちら)。ですから,正直なところ,好きな作家さんの作品とはいえ,ストーリィ的にはいまひとつ楽しめませんでした。ただ,この作者の幽霊の造形は,やはり怖いものがありますね。「おいらん淵」の取材に同行した新人編集者の門野に取り憑く少女(?)の幽霊−顔がグズグズに崩れた−は,こう,「ぞくり」と来るものがあります。とくに,自動車に乗って逃げようとする門野を追いかける幽霊,バック・ミラーからその姿が消え・・・というところは,ありがちといえばありがちなのですが,思わず「ぎくり」とする効果的な「見せ方」と言えましょう。
 それとオープニングでの,編集者との打ち合わせのシーンに見られるとぼけたユーモア−「言語道断な話だが私は夕方6時から他社の編集者と飲んでいて・・・」とか「酔って打ち合わせなんてするもんじゃない」とか−は,いいですね。描かれている本人の顔が「マジ」なだけに,よけい笑えます。

「CSホラーTV〜「家」〜」
 恐怖番組専門のCSチャンネル“ホラーTV”のディレクタ・鹿江美里は,子どもの霊が居るという幽霊屋敷を取材し…
 タイトルから察するに,「CSホラーTV」なる架空のテレビ局を舞台にしたシリーズものの1編のようです(あるいはシリーズ化を目指してこけたか?^^;;)。生前,母親に虐待され,殺された子どもの霊が,成仏できずに住み着いている,という,いかにも的な展開ですが,終盤にいたって思わぬツイスト,前半で描かれた不可解な心霊現象が「ああ,なるほど」と腑に落ちます。ラストもオーソドクスではありますが,その映像的なインパクトがグッドです。また,テレビ・カメラに映る鞠治の「所行」は,じつにおぞましいです。本作品集で一番楽しめました。

「伝奇屋事件簿」
 忙しい売れっ子作家に,歴史・民俗などの「ネタ」を売る「伝奇屋」藤井真輝は,中国・三星堆遺跡をめぐる殺人事件に巻き込まれ…
 こちらは,この作者お得意の(そしてわたしの好きな)伝奇ホラー&アクションです。これまた,なにやらシリーズ化を目論んでいるような気配が感じられます(笑)。三星堆遺跡から発見された青銅製品は,京極夏彦が,『塗仏の宴』でもネタのひとつとして使っていたように,その奇怪な造形が作家さんの想像力を刺激するのでしょう。この作者も,例によって大胆な解釈で,三星堆の「謎」を,不可解な殺人事件と絡めながら解き明かしています(う〜む・・・『カルラ舞う!』を読んでいるような・・・)。
 それにしても,この作者,少女に強力な霊(あるいは神)が取り憑いて,超人的なパワーを発揮する,というパターンが多いですね^^;; 少女マンガ出身ということもあるのでしょうが,それこそ,邪馬台国卑弥呼に遡るシャーマンの系譜を意識しているのかもしれません。

01/03/10

go back to "Comic's Room"