永久保貴一『新 カルラ舞う!』1巻 秋田書店 1998年

 なにはともあれ,
祝! 扇舞子&翔子 復活!!
であります(なんか,前もやったな,これ(^^ゞ)

 迦楼羅神教宗家・扇家の双子の娘・舞子と翔子は,一見普通の女子高生。しかしてその実体は,代々邪法によって起こる事件を人知れずおさめていく一族の三十八代教主にして,霊能力の持ち主。内閣調査室の依頼を受け,尋常ならざる不可解な事件を解決するため,ふたりは今日もまた,恐るべき敵に立ち向かう!

 『ハロウィン』(朝日ソノラマ)亡きあと,秋田書店の『サスペリア』に舞台を移しての新シリーズです。作者によれば朝日ソノラマ版は「高校2年生編」,今回は「高校3年生編」だそうです。しかし,こんなことやっていて,大学受験は大丈夫なのかな? とくに舞子の方!(笑)
 さて,「諏訪怨霊祭」とサブ・タイトルのついた今回のエピソードの舞台は,諏訪です。諏訪といえば,『古事記』に記されているように,建御雷(タケミカヅチ)に敗れた建御名方(タケミナカタ)が逃げてきた土地,そして「日本三大奇祭」のひとつ「御柱曳行」の祭事,さらにかつては縄文文化が栄えた中心地,と,こういった伝奇ものの舞台としては,繰り返し取り上げられている地方です(あの諸星大二郎の『暗黒神話』の最初のシーンと,『孔子暗黒伝』のクライマックス・シーンは諏訪でしたね)。
 物語は,諏訪で起こった神官・漏谷家当主の失踪,横須賀でのアメリカ軍駆逐艦の不可解な沈没,舞子たちの高校に入学した不思議な力を持つ少年・藤枝匠と彼をつけ狙う謎の男・・・と,いまのところ全貌の明らかにされない事件をめぐって,舞子&翔子,「闇の死繰人(クグルト)」こと剣持司,池田近江,内調の錦織,とお馴染みのメンバがそれぞれに動き始めます。こういった複数のエピソードに,各キャラクタが関わりながら,メインの謎へと収束していくというストーリィ展開,そしてその合間合間に挿入される民俗学やら古代史絡みの蘊蓄,ここらへんはこの作者の十八番といっていいでしょう。安心して読めます。
  ただちょっと不安なところがないわけでもありません。というのは,藤枝匠の能力は,「時間を戻す力」なのです。この設定の超能力は,うまく使わないと,すごい「ご都合主義」に陥る危険性がありますからねぇ・・・。ま,それは言っても詮ないことですが。
 まだこのエピソードが完結していないので,事件の背後にいる“黒幕”の目的やらなにやらは,はっきりしていませんが,ただ今回相手する宗教団体,復古神道・巳差口神はかなり強力のようです。なにしろ,あの怖いもの知らずの婆さん(笑)・扇千景と剣持がふたりがかりで闘って,病院送りにされてしまうという「神風」の使い手。
 そう,この「神風」というのが曲者らしいのです。事件の黒幕は,その使い手に軍服を着せ,「似合うぞ,よく似合うぞ」と涙を流す,軍服フェチのホモ,じゃなくて(笑),軍国主義の亡霊といった設定のようです。どうもそこらへんが謎の核心になりそうな気配ですね。

 それにしてもやきもちを焼く近江くん,ちょっとかわいい(笑)。

98/09/30

go back to "Comic's Room"