青池保子『エロイカより愛をこめて』9巻 秋田文庫 1999年

 前巻「笑う枢機卿」での失敗のため,以外の部下全員がアラスカ送りとなってしまったNATO情報部。自分から言い出した結果とはいえ,慣れぬデスク・ワークの連続で,ひたすらストレスを溜めるまくるエーベルバッハ少佐(と書類の山の陰でひたすらおびえまくるZ)。「このままではいかん。なんとか部下を呼び戻さねば」と,部長が送り込んだ秘密兵器は,あの(笑)SISのチャールズ・ロレンスくん・・・という「番外編 ロレンスより愛をこめて 1」であります。
 で,ロレンスのおちゃらけペースにすっかり振り回される少佐ですが,一番笑ってしまったのが,ロレンスの妄想―「ハンブルグの夜の帝王」です。
「夜な夜な飾り窓を蹴破り,居並ぶ美女たちを荒々しく抱き寄せ押し倒し,ハンブルクの夜は「鉄のクラウス」のスパー・パワーで乱れるに乱れるのであった――」
 もう大爆笑です。でもロレンスにそんな妄想を起こさせる意味深な会話をする少佐も少佐ですが・・・(このあと,Zに「もう穴場を教えてやらんぞ」と言ったり,エーベルバッハ家の使用人が持っていたアダルトビデオ(「カステラ屋ドンちゃん 疑惑編」(笑))を少佐が見て,「あれは見るもんじゃない,やるもんだ」などとサラリと言うところを見ると,少佐ってじつはムッツリスケベなのではないでしょうか?)
 その後,ボンを追い出されたロレンスは,伯爵のもとへ行き,伯爵も大いに迷惑するのですが(「番外編 2」),ふたりの場合は,むしろ近親憎悪に近いものがあるでしょう(笑)。

 さてそんな少佐にもついに新しい任務がもたらされます。KGBの資金源を断ち切るために,アラスカから部下を呼び戻し,リヒテンシュタイン侯国に飛ぶ少佐。一方,KGBもまたそれを阻止しようと,ひとりの男をシベリアから呼び戻します。そう「仔熊のミーシャ」です。「NO.13 第七の封印[Part1]」であります(改めて思いましたが,このシリーズ,サブ・タイトルの付け方がむちゃくちゃかっこいいですね)。
 「9月の7日間」において,炎熱の砂漠で激突したふたりが,ふたたび,今度は雨のチューリッヒを舞台にして相まみえます。といっても,傘で雨水を引っかけ合うという,ほとんど小学生のケンカのレベルです(笑)。おまけにそれぞれの部下がアラスカ呆けシベリア鈍化してるもんですから,上司も大変です(笑)。
 ところがこのお話,KGBの資金源というのは,どうやらイントロに過ぎないようです。同じ頃,ベルギーでIBMの技師が誘拐されます。東側に闇ルートで流れるコンピュータ,西側はそれを妨害するため2年経つと微妙に狂うコンピュータを製作します。もちろんそれは西側世界にも流通するわけで,それを調整するための「ブラック・ボックス」が作られます。誘拐された技師は,そのブラック・ボックスを持ち,調整する技師だったのです。技師を連れ去るミーシャ,それを単独(びくびくもので)追う部下Z,そして少佐。ミーシャの真の意図は那辺にあるのか? 物語はまだまだ始まったばかりのようです。

 え? 伯爵ですか? 伯爵は元気です。ジェイムズ君ボーナムさんも元気です。
 ・・・などと書くと,伯爵ファンから殴られそうですが(^^ゞ,このエピソードでは,お得意の女装で,リヒテンシュタインの国家機密を盗み出すために少佐に協力して活躍するとはいえ,ストーリィ展開の主導権は少佐(とミーシャ)が完全に掌握している感じですね。かりにも(笑)主人公なんだから,もう少し頑張って(かき回して)ほしいところです。

99/01/20

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