青池保子『エロイカより愛をこめて』7巻 秋田文庫 1998年

 KGBの全貌を記した極秘文書“ルビアンカ・レポート”をめぐる,少佐,伯爵,“仔熊のミーシャ”の争奪戦の舞台は北アフリカ・アレクサンドリアへ・・・。そこに伯爵に怨みを抱くオイル・ダラー,サーリム・アル・サバーハが参戦! 事態は混乱につぐ混乱・・・。少佐ははたして任務を遂行できるのか?

 とゆう,「NO.11 9月の7日間[Part2]」であります。
 前巻の感想文でも書きましたが,テンポいいですね,このエピソードは。それはおそらく,あちこちを飛び回るという設定によるところも大きいでしょうが,それとともに“ルビアンカ・レポート”という1本のメインの筋があるからでしょう。それをお馴染みのキャラが,あの手この手で手に入れようとするという,ストーリィの眼目,焦点がはっきりしているせいで,ストーリィ展開がタイトで,読みやすいですね。
 盛り上がるのは,サバーハがホテルの貸金庫にしまったレポートを奪回しようとするシーン。なんと! 伯爵・少佐・ミーシャの共同作戦です。有閑マダム風に変装した伯爵,その夫が少佐,ミーシャは執事,と,なんともはまった配役です(少佐の「おれは執事役のほうがよかったんだ」というセリフに「執事の頭ははげているものだよ」と答えるミーシャ。それに対して無言の少佐,いったいなにを考えているのでしょう? 自分のところの執事さんを思いだしているのでしょうか? それとも将来のことを心配しているのかな(笑))。
 といってもこの共同作戦,もともと利害も思惑も(なにより性格も!)異なる3人ですから,文書を入手した時点で,あっという間に解散,ふたたび三つ巴の争奪戦です。三者がそれぞれに「残り2人の裏をどうかくか?」と思案をめぐらすあたり,狐とタヌキの化かし合いといった感じで,楽しいですね。やっぱりスパイ・マンガですね(笑)。
 そしてクライマックスの舞台は,エル・アラメイン。かつてアフリカ戦線でドイツ軍がイギリス軍に惨敗した旧戦場です。う〜む,それにしてもミーシャ,骨の髄から共産主義者のくせに,験かつぎするんですね(笑)。もしKGB本部にばれたらただじゃすまないじゃないでしょうか? 残念ながら,英独合同軍の前に惨敗してしまいますが・・・。ここの銃撃シーンはなんとも迫力があります。要所要所で,こういった緊迫するシーンを挿入するところが,この作者の巧いところですね。

 「番外編 パラダイス・PARTY」は,少佐とZが北欧出張中に,部長の誕生パーティを少佐宅で開こうという無謀な(笑)計画の顛末を描いています(この「北欧出張」というのは,『Z IV』ですね)。ボーナムと執事さんとが愚痴をこぼしながら皿みがきしているシーンは,なんとも哀愁がありますね。扱いづらいボスを持つと苦労するという教訓を含んでいます(笑)。ところでボーナムの「このままではグローリア家の直系の子孫が絶えてしまうのが心配ですよ」というセリフ,そんな心配をするってことは,もしかしてボーナム家は,先祖代々グローリア家に仕えているのでしょうか?

 ラストは「NO.12 笑う枢機卿[Part1]」です。エージェント“オットー”が消される直前に残した謎の言葉「笑う枢機卿」を探りに,ローマに飛ぶ少佐一行。一方伯爵たちはスイス・チューリッヒに入ります。“オットー”が消されたのはスイス,当然,少佐の部下たちが調査に向かっています。はてさて今回はどうなるのでしょうか?
 で,このエピソードで一番笑ったのが表紙,少佐と伯爵にはさまれて冷や汗をかいている部下Bです(笑)。

98/09/25

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