青池保子『エロイカより愛をこめて』10巻 秋田文庫 1999年

 “仔熊のミーシャ”によって拉致されたIBMのコンピュータ技師と“ブラックボックス”を追って,スウェーデンへ飛ぶ少佐たち。しかしミーシャはダミーだった! 本物の“ブラックボックス”が運ばれた先はギリシャのアテネ。北欧から一転,南欧へ,そしてトルコへと舞台を移した物語は,いよいよ佳境を迎える! 最後に笑うのはミーシャか? 少佐か? それとも・・・

 ヨーロッパの真ん中,リヒテンシュタインから始まった「NO.13 第七の封印」は,スウェーデン,ノルウェイ,ギリシャ,トルコと,ヨーロッパ大陸を縦断横断した末に,フィナーレを迎えます。7巻「NO.11 9月の7日間」もかなりハードなスケジュールでしたが,今回もなかなかのものです。やっぱりスパイはタフですね(^^ゞ

 さてその「スパイ」ですが,このお仕事は「騙し騙され」が日常茶飯事です。いかに敵を騙すか? そして敵からいかに騙されないか? 効果的に敵に騙し,敵からけっして騙されないこと,それが優秀なスパイの必須条件なのでしょう(先進国が情報工学に力を入れるのは,多分に情報戦,スパイ戦が持つ重要性の増大の影響でしょうね)。このシリーズでも,ミーシャ・少佐・伯爵の三者の戦いは「相手をいかに騙すか?」というシチュエーションが多いです。
 今回のエピソードは,とくにその色合いが強いですね。のっけから,ミーシャは少佐を騙しにかかりますし,その後は,伯爵が少佐に化けてミーシャを騙します(Zの少佐の変装はよく似てますね。「減俸処分のあとはアラスカしか残っていないんです・・・ぼ・・ぼくは必死です」には笑っちゃいました^^;;)。このエピソードのメインのネタである“ブラックボックス”そのものが,「騙し」の手口ですからね。
 そう,この“ブラックボックス”・・・ミーシャによってソ連へと運び去られてしまいますが,最後の最後になって,その正体が明らかにされます。それはまさに「敵を欺くためにはまず味方から」という「騙し」の極意を地でいくようなエンディングです。また「第七の封印」というミステリアスなタイトルがじつに効果的です。このラストを読んだとき,この作品,たしかにコメディではありますが,スパイものの本質を突いているなぁ,と思わず感心してしまいました(<ちょっと失礼かな?^^;;)。

 で,コメディとしてのこのエピソード,一番笑ってしまったのが, KGBの「アメリカン・コーヒー」ですね。さすがミーシャの部下です(笑)。途中からどんどん壊れていくコンピュータ技師もいい味だしてますね。

98/04/04

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