青池保子『エロイカより愛をこめて』6巻 秋田文庫 1998年

 エーベルバッハ家に伝わる絵画「紫を着る男」,伯爵がそれを狙っていることに苛立った少佐は,ロンドンのオークションで売り払ってしまおうと決意,伯爵はこれを機に盗み出そうとして・・・という「番外編 ミッドナイト・コレクター[Part2]」
 で,これをプロローグとして,物語は「NO.11 9月の7日間[Part1]」へと繋がっていきます。不愉快なロンドン滞在が終わり,ようやくボンへ帰れると喜ぶ少佐,その少佐に,SISのミスター・Lが極秘文書“ルビアンカ・レポート”を手渡します。ルビアンカ・レポート―それはKGBの全貌を記した文書(「ルビアンカ」ってKGB本部のあるところでしたよね<ちょっと記憶あやふや)。ところが少佐の乗ったルフトハンザ機がハイジャックされた! 一見,イギリスのテロリストによる犯行と思われたが,その背後にはルビアンカ・レポートを狙うKGBの影が・・・,そして外交官に化けた伯爵がその機体に乗り込み・・・,と進んでいきます。
 以前,なにかで読んだ記憶があるのですが,この「9月の7日間」というエピソードは,1週間という短い期間でヨーロッパ圏を,伯爵と少佐がどれだけ駆けずり回れるか?(駆けずり回せるか?)という,作者の「陰謀(笑)」で始められたそうです(でもメモリ容量が異様に小さいわたしの記憶ですから・・・(^^ゞ)。
 というわけで,ロンドンを飛び立った少佐は,希望のボンへは行けず,ノルウェイのオスロ,フランスのシャルル・ドゴール空港を経て,スペインのド田舎の尼僧院,そして地中海を越えてアレキサンドリアへと飛び回ります(え〜と,ここまでで3日目かな?)。
 いやぁ,これだけキャラクタたちがあちこち飛び回ると,話の展開がスピーディでサクサク読んでいけて,なんとも楽しいですね。
 そして見せ場はふたつ。ひとつはハイジャックされた飛行機を少佐が操縦,シャルル・ドゴール空港に着陸する際,強引なタッチ・アンド・ゴーでハイジャッカーを一気に取り押さえます。伯爵の言う「戦闘機と間違えている」少佐の荒技一本! といった感じですね。しかし民間機でこんな荒っぽい芸当可能なんでしょうかね(笑)。でもこういった荒唐無稽さがこの作品の魅力でしょう。
 で,もうひとつは,なんといってもスペインの片田舎の酒場で繰り広げられる,少佐vsミーシャの殴り合いでしょう。KGBとNATOの大物スパイが,ウォッカとジンでべろんべろんに酔っぱらって大喧嘩! もう大爆笑です。「あいつをつかめーろ」という少佐の言葉が酔っぱらいの哀愁(笑)をそそります。でも「自己嫌悪なんぞまっぴらだ。もう二度とあんなぶざまな失敗はやらんぞ――!」というところが,少佐らしくていいです。

 さて,伯爵に盗まれたルビアンカ・レポートを追って,アフリカに降り立った少佐。列車の屋根の上で灼熱の太陽にあぶられながら,伯爵のいるアレキサンドリアに向かいます(これだけ汗をかけば,二日酔いも一発で抜けるでしょう)。当然,仔熊のミーシャもその後を追います。さらに「ミッドナイト・コレクター」で,伯爵に一杯食わされたオイル・ダラー,サーリムも加わって,「9月の7日間」の残り4日間(ホントに計算間違ってないか?)は,いやがおうにも盛り上がろうというものです。

98/07/18

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