夢枕獏・石川賢『アーモン・サーガ 月の御子』リイド社 1998年

 月が異様に大きく,妖しく輝く夜。その月からひとりの男が平安の都に落ちてきた。男の名はアーモン。人は彼を武勇神インドラの化身と呼ぶ。彼の生き肝を喰いたいと,遠くインドから日本へと呼び寄せた「かぐや姫」を探して,アーモンは旅立つ。襲いかかる怪異をその剛腕でねじ伏せながら・・・

 夢枕作品の石川賢によるマンガ化というと,かつて『闇狩り師』をもとにした『九十九乱蔵』がありましたが,発表誌が『小学四年生』ということもあって,いまひとつ原作の迫力を表現しきれていないという恨みがありました。しかし今回はそんな「縛り」がなく,まさに作画者のパワー全開という感じで,じつに楽しい作品に仕上がっています。

 さて本編の主人公アーモンは,原作者の初期の作品『月の王』『妖樹・あやかしのき』に出てくるメイン・キャラクタであります。しかしこの作品では,古代インドを舞台にした原作からは大きく逸脱し,彼は平安時代の日本へと,時間と空間を飛び越えます。
 ここらへんの設定とその後のストーリィ展開が,原作者の発案によるものなのか,作画者のオリジナル・ストーリィなのかは,判断に迷うところであります。たとえばアーモンが相手する異形の者たちは,かぐや姫桃太郎といった面々です(もっともおとぎ話に出てくる彼らとは似ても似つかぬ怪異な存在です)。石川賢には,傑作「桃太郎地獄変」を含む「おとぎ話シリーズ」という作品がありますから,ここらへんは作画者の「趣味」がもろに出ているという感じです。
 一方,平安京といえば,『陰陽師』に代表されるように原作者が好んで扱う舞台です。また,途中に挟まれる阿座土(アザド)のエピソードや,ラストで明かされるかぐや姫の正体と,アーモンとの因縁―おどろおどろしくも,哀しい異形の者の恋―といったところは,まさに「夢枕獏の世界!」といった雰囲気が再現されています。
 ホント,どうなんでしょうねぇ???
 まぁ,いずれであったとしても,「夢枕獏と石川賢はよく似合う!」ということを改めて再確認させてくれた作品ですね。
 (もしわたしが単なる無知で,この作品の「本当の原作」がありましたらご一報ください^^;;)

98/11/17

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