岡崎二郎『アフター0(ゼロ) 著者再編集版』9巻 小学館 2003年

 サブタイトルに「トワイライト・ミュージアム1」とありますように,1994年に「ビッグゴールドコミックス」として刊行された同タイトルの作品集に,単行本未収録作品を加えた再編集版です。この巻ではオリジナル版から8編と未収録作品4編を収録しています。

 さて本巻で注目されるのが,冒頭に収録されたデビュー作「仏陀降臨す」。オリジナル版『アフター0』でファンになったわたしとしては,今回が初見です。西暦2026年,インド上空36000キロの静止軌道上に仏座像を固定する計画が進められ…という内容。ときおり「デビュー作にはその作者の「すべて」が入っている」という言葉を目にしますが,まさにそれが首肯される作品と言えましょう。たとえば,宇宙空間に仏像を浮かべようとする「SF的奇想」,テロリストの攻撃によって生じる危機−「サスペンス」,メイン・キャラのひとり照宙の素性をめぐる「ミステリ」,尾賀坂由紀とのほのぼのとしたラヴ・ロマンスなどなど,そののちこの作者の諸作品に共通するモチーフが,すべて盛り込まれているように思えます。絵柄的に,どこか「劇画調」の感じがするのは青年誌デビューということと,なにか関係するのでしょうかね?

 さて旧『トワイライト…』からの再掲作品で,一番のお気に入りは「遙かなる孤島」です。無人島に漂着した“先生”と少女アリサ。アリサは成長し,先生と愛し合い,子供を産み,老いていきますが,先生はその姿を変えることなく…というストーリィ。もちろんその理由は「SF的奇想」に基づくものですが,読者の目を上手にミス・リードしながら,最後に意外なツイストを仕掛けるとともに,ひとりの女性の生と死をめぐる哀切を巧みに描き出しています。星野之宣の佳品短編「セス・アイボリーの21日間」『スターダスト・メモリーズ』所収)に通じるものがありますね。
 このほか,科学的知識を背景に起きながらも民話的テイストが楽しめる「二つの山の物語」や,都市伝説にでもありそうな「勝利の神」なども,作者の「ワン・アイディア」がよく活かされた作品で,好きですね(そういう意味で,同じ「ワン・アイディア」の異なるヴァージョンと呼べるのが,「滝の神」「ミッシング・ライフ」でしょう)。また,いずこと知れぬ古代を舞台にした「城壁」は,主人公である盗賊ザルガードの剽軽なキャラクタが,作品に軽快感を与えています。

 今回の初収録作品には,「沈黙のアスリート」「ESP’sワルツ 第1楽章・第2楽章」の2編があります。「沈黙の…」は,怪我で選手生命を絶たれた男が,遺伝子治療によって復活するが…というお話。素材的には「究極のホラー」『著者再編集版』8巻所収)と共通するものがあり,やや新鮮みに欠けるうらみがありますが,この作者にしては珍しいスプラッタ風の描写がある点,ちょっと異色作ではないでしょうか。
 「ESP’sワルツ」は,テレパシー能力を持った老医師福山喜一郎,小学生の光彦,その従姉をメインとした作品。この3人のやりとりを描きながらストーリィが展開されていくと思いきや,「第2楽章」で終わっているところを見ると,もしかして何らかの理由で中断した作品のようにも思えます。とくに,喜一郎や光彦と,一歩距離を置いたスタンスの薫の扱いが,いまひとつ中途半端なところがあり,彼女をメインとした「第3楽章」があってもおかしくないのではないでしょうか?

03/03/13

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