岡崎二郎『アフター0(ゼロ) 著者再編集版』10巻 小学館 2003年

 『トワイライトミュージアム』を取り込んだ再編集版も,これで最終巻。単行本未収録作品を数多くコミック化してくれたことはもちろん,なんといっても「『アフター0(ゼロ)』以前」のデビュー作を含む初期作品が収録されたことが,ファンとしてはうれしいですね。

 この巻での初期作品としては,まず「乾いた大地の水の街」です。シルクロードのオアシス都市遺跡で発見された噴水遺構,そこには財宝の隠し場所を示す暗号が隠されている…というエピソード。この作者には,「考古学ネタ」がけっこう見られますし(本巻所収の「鯨面のアリア」などもそうですね),一方で,「暗号ネタ」もときおり見受けられます(再編集版2巻「ペルセウスの帰還」「夢は春とともに」など)。そういった意味で,「考古学+暗号ネタ」の初期作品である本編は,9巻所収のデビュー作「仏陀降臨す」の感想文でも書きましたように,その後の作者のテイストが,はやくもたっぷりと詰まった作品と言えましょう。ただミステリ者としては,最後に明かされる真相よりも,由木仮説立石補正仮説の方が,すっきりしていいように思えるのですが^^;;
 初期作品,もうひとつは「レムの接点」。病院で昏睡状態の女性に,同じ夢を見る男は,深い負い目を感じ…というお話。「同じ夢を見る」という,いわばSFファンタジィ的な設定と,彼女が見る夢の「続き」は?というミステリ・テイストがミックスされた作品です。ミステリ的な「解決」(=真相の判明)を受けて,それをファンタジックに「解決」していく展開が,この作品の魅力となっています。夫亡き後の妻が,主人公のプロポーズを拒絶し続けたことが,別の意味を持ってくるというところが,深い味わいを醸し出していますね。
 初期作品ではありませんが,今回,初収録のものとしては「朝貌の文」があります。平城京跡から発見された木簡,そこには,古代の恋人同士の悲恋がつづられており…という内容です。あざといと言えば,あざといストーリィ展開でありますが,おもいっきりあざといラストをされると,それもまた良し,といった感じですね。

 さて『トワイライト』からの再録作品で,わたしが一番好きなのは「幸福の十円玉」です。小さな村でのUFO騒ぎ,10円玉の大量遺失事件,スーパーマーケット開店のための「10円セール」と,奇妙な展開の末に,SF的な「真相」へと繋がっていくストーリィなのですが,そこに主人公の少年の無邪気な行動を挿入することで,なにやらきな臭い「真相」とのコントラストがじつに鮮やかに描かれています。たとえどんな国家的な陰謀が秘められていても,月光の中でくるくる回りながら飛ぶ10円玉は,少年にとってなによりの「宝もの」なのでしょうね。ラストでの,そんな陰謀とはまったく無関係な少年の笑顔がグッドです。
 一方,これとは対照的にビターなテイストのエンディングを迎える「星からの訪問者」も,けっこうお気に入りの1編。地球上空に突如現れた異星文明の宇宙船,世界中がファースト・コンタクトに沸き返るが,宇宙船の正体はじつは…というお話。「人類は結局いつまでも孤高の存在でいたかったのだよ」というモノローグで終わる本編は,たしかに宇宙人との接触というSF的な内容とはいえ,なんだか,人間同士のコミュニケーションにも敷衍できるようで,どきり,とさせられます。結局,「他者」をどんなに理解したとしても,「他者」は「自分」の「想像」のうちにしか存在しえないという,人間のコミュニケーションそのものの,ある種の「限界」を暗示しているようにも思えます(う〜む,勘ぐりすぎかなぁ(^^ゞ)。

 ところで『ビッグコミック』2003年4月25日号によれば,「アフター0 Neo」という新シリーズが始まるとのこと。再編集版7・8巻の感想文で,最近は独立短編のシリーズものは,商業戦略上,あまり歓迎されていないのではないか,というようなことを書きましたが,今度の新シリーズについても,旧シリーズと同様,息の長い作品になってくれれば,と思います。

03/04/23

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