星野之宣『2001+5 星野之宣スペース・ファンタジア作品集』双葉社 2006年

 「故郷は嵐だけど,生き残った者は帰らなければならないわ」(本書「怒りの器」より)

 この作者の「SF部門」の代表作と言える『2001夜物語』の番外編をはじめ,単行本未収録作品をおさめた短編集です(「伝奇部門」では,やはり『ヤマタイカ』でしょうね。『妖女伝説』「宗像教授シリーズ」も捨てがたいですが)。

「夜の大海の中で 2001夜物語番外編」
 地球を出発して500年後,無人探査船ディスカバリーは,偶然,地球の宇宙船に遭遇する…
 本編「第7夜 遙かなる旅人」で地球を発し,その50年後,「第10夜 明日を越える旅」で,人類によって「見捨てられた」ディスカバリーKARC9000の物語の「完結編」です。もしかすると,作者も,KARC9000のあまりに哀しいエピソードに心残りがあったのかもしれません。だからこそ,作者は,その「旅人」にプレゼントを,それもきちんとしたSF的発想に基づくプレゼントを与えることで,本当の意味で『2001夜物語』の幕を閉じさせたかったのでしょう。そしてそれがまた,新たな「旅」の序章へとつながるところが心憎いです。
「STARSHIP ADVENTURE Star Field 
アーサー・ワールド さそり座の赤い星(1)」
 小惑星で発見された太古の宇宙船2隻。それは人類を未知の戦いへと導くものだった…
 人類と謎の侵略者との戦いを描いたスペース・オペラ。掲載誌の休刊によって中断された作品です。モチーフとして「アーサー王と円卓の騎士」が取り入れられているようですが(宇宙船エクスカリバーとかコンピュータマリーンとか),ストーリィ的にもそうなのかは,この段階では不明のままです。もしかすると,謎の侵略者とは,いわゆる「ロボット帝国」で,彼ら(?)が恒星を超新星に変えてしまうというのは,単なる侵略ではなく,超新星化の際に得られるエネルギーが目的なのでは?などと,未完であることをいいことに(笑),いろいろと想像してしまいます。ちなみに個人的には,総合物理工学の天才ネイビーというキャラが,「無邪気な魔女」という雰囲気で好きです。
「怒りの器」
 ロシアの宇宙船を乗っ取った男は,アメリカへ核攻撃を加えるよう指令を出す…
 『2001夜物語』「第2夜 地球光」で,アメリカと旧ソ連の首脳が,宇宙船上で青い地球を見ながら会談するというエピソードがありました。「宇宙時代」の幕開けを告げるオープニングとして,すこぶる印象的でした。しかし本編では逆に,その宇宙から,赤黒い放射能で侵されていく青い地球が,見開きのカラーページで描かれています。そして,世界の貧困が,富そのものの絶対的不足によるのではなく,極端な偏在によってもたらされていることを描く最初のシーンを見るとき,わたしたちの世界が,『2001夜物語』より,この作品の方に近いことを知らされます。
「スペース・ファンタジア」
 2ページ見開き計4ページという3編−「黄金の惑星」「ドルメン」「極北への旅」−を収録した掌編集。絵本もしくはアメコミを連想させる作品です。「国辱漫画」を思わせるビターな皮肉の効いた「黄金の惑星」が好きです。
「フォボス・ダイモス」
 謎の事件が発生した火星の衛星フォボスの基地。到着した交代要員がそこで見たものとは…
 この作者らしい「SF的奇想」がベースになった作品です。また火星の衛星ダイモス・フォボスの名称が,神話の「恐怖」「敗走」に由来するという点を取り上げて,作品全体のトーンを形作っているところも,この作者の持ち味といえましょう。ただ,それぞれのエピソードに,その雰囲気だけでなく,もう少し「理」的なつながりがほしかったところです。
「霧の惑星」
 霧に覆われた惑星で,彼らが見出したのは,古代文明の廃墟と,そして…
 SFが「文明批評」としてのテイストを持っていることは言わずもがなですが,それをどう描くかが,作者の力量の見せどころでしょう。本編は,「記憶の蓄積としての人類文明」「自然破壊としての人類文明」の姿を,じつにSF的で思いもかけない設定で,見事なまでに描き出しています。独立した短編としては,本集中で一番楽しめました。

06/02/12

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