朝 礼 訓 辞

平成24年8月1日

  日本医師会と読売新聞社の共催で年に1回、「心に残る医療」という医療体験記コンクールが催されています。
 昨年の入選作品の中に、広島に住んでおられる47歳の主婦の書かれた「確信の一言」という一文がありました。

 結婚後まもなく妊娠が分かり、二人で感謝し、うきうきして産婦人科を受診しました。
 ところが超音波に写っている子供の心音が聞こえないのです。1週間後に聞こえなければ人工流産しかないという事で、結局手術になりました。

 それから1年、再び妊娠、天にも昇る気持ちでした。
つわりはひどかったが、今度は心音も聞こえ、赤ちゃんも順調で、毎回の診察も超音波を見るのが楽しみでした。
 赤ちゃんの元気と行ったら、子宮の中を所狭しと動き回り、ご主人もうれしくて仕方がない日々だったそうです。

 ところが秋が深まる頃、何故か二人で診察をと言われ、そこで聞いた事実に二人は奈落の底に突き落とされたのです。
 なんと赤ちゃんはもうすでに亡くなっているというのです。診断名は無脳症、赤ちゃんに脳がないのです。
「先生、しばらくしたら頭蓋骨も出来てくるかもしれないではありませんか。私は生みます。」
先生は「生まれても1~2分の呼吸しかできず、子供の顔を見ればよけいに辛くなるでしょう」とのことでした。
 この方は、その事実をどうしても受け入れられず、期待して診察を受けましたが、やはり結果は同じでした。

 その時、先生は力強くこういわれたそうです。
「昔は超音波というものがなくて、子供の状態が分からず、出産ではじめて事実を知っていました。でも今は違います。科学の恩恵を素直に受け入れましょう。世の中には不妊で悩まれている方が大勢います。あなたは妊娠できる体です。次に生まれてくる子供達のためにも子宮を大切にしなさい。必ず子供は出来ます。」

 それから22年、長女、長男、二女、三女と子宝に恵まれたそうです。あのとき、先生の言葉がなかったら意地でもあの子を産んでいたでしょう。そうしたら、今のこの4人の子供達は生まれてこなかったでしょう。
 後から分かった事ですが、この産婦人科先生のご夫婦は子供がおられず、ずっと不妊治療をされていたという事です。

 希望を捨てない。あきらめない。投げ出さない。

 どんな黒雲の上にもいつも太陽は照っている
止まない雨というものはない。明けない夜もない。

 小さな事にも希望を見出しながら頑張りましょう。
今月もよろしくお願いします。
医療法人純青会 せいざん病院
理事長  田上 容正

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