朝 礼 訓 辞
平成24年3月1日
先月2月13日、東京立川市のマンションの一室で女性と男の児が死亡しているのが見つかりました。男の児の胃の中は、空っぽで脱水状態だったことが警察の調べで分かりました。 この部屋に住む45才の母親と4才の男の児であると思われますが、死後1~2か月が経過しており、母親が、くも膜下出血で死亡したあと、、男の児は食事を取らないまま衰弱死したものと思われます。 何ともやりきれない悲惨でかわいそうな事件であります。 今から60年前、私が高校生であった頃「汚れなき悪戯」という映画が制作され、今でもあまりにも有名な名画として時々、放映されていますが、皆さんの中にもご覧になられた方がいるかと思います。 スペインの片田舎の修道院の鉄の門扉の前に、毛布にくるまった生まれたばかりの男の児が捨てられていて、修道僧たちがミルクなどを与えて育てた物語です。 スクスクと育ちますが、いたずらっ子で落書きをしたり、洗濯物を汚したり、毛布を破いたり、悪戯ばかりしていました。 ある日、屋根裏部屋にこっそり入ってみると、大きな男の木像があり、十字架にかかっていて、手と足から血を流し、腹はへっこみ、とてもひもじそうで、そして大変苦しそうでした。 男の児は、この日から毎日、台所からパンやワインを盗み、この大男に与え続けました。 男の児はマルセリーノのという名前で、大男はいうまでもなくキリストなのですが、この映画音楽は今でも世界中で愛され歌われ続けています。 男の児が4才位になった頃は、二人ともとても仲良しになり、いろいろな話をするようになり、自分は母親の顔も知らないし、是非一度会ってみたいと大男に頼みます。 ある日、熱を出し、とても苦しかった時、それでも、マルセリーノはパンとワインと毛布を持って、大男の所へ行きます。 台所の主任の修道僧がこっそりマルセリーノの後をつけて行き、この様子をじっと眺めていますが、大男は苦しげなマルセリーノを抱き上げ、顔を撫でながら「お母さんに会いたいか」と尋ねます。 「早く会いたい、そしてあなたのお母さん(マリアのこと)に会ってみたい」とマルセリーノが言うと、「もうすぐきっとあえるよ、静かに目を閉じ、眠りなさい」と言いました。 翌朝、屋根裏の十字架の下の粗末な木のソファーに、とても幸せそうな死顔でマルセリーノが見つかりました。 東京立川の4才になる男の児とスペインのマルセリーノが、私の心の中で、二重に重なって私の頭から離れません。 二人は天国で母親や天使たちときれいな花園で遊び戯れてきっと永遠に生き続けることでしょう。 それに引き替え、私の76年の人生は何だっただろうと自問自答しています。罪と汚れに染んだ人生でしたが、残された人生だけでも、もっと一生懸命に生きなければならないと考えます。 それは、種子島、屋久島の不幸にして、心を病んでいる人々に奉仕することです。 私一人では何もできませんので、皆さんのご協力がどうしても必要です。 心を合わせ、熊毛の精神医療のために頑張りましょう。 新しい病院も来月には着工できると思います。 何卒よろしくお願い申し上げます。 3月もまだ寒さが残りますので、体には十分気を付けて下さい。 |
医療法人純青会 せいざん病院 理事長 田上 容正 |