結城信孝編『妖美』徳間文庫 1999年

 『誘惑』に続く「女流ミステリー傑作選」の第2弾です。というか,「編者解説」によれば,2冊で一組だそうです。
 けっこう好きな作家さんの作品が収録されているにも関わらず,いまひとつ楽しめなかったのは,編者のセンスに馴染めなかったからではないかと思います。つまり「この作家さんならば,こっちの短編の方が・・・」という(読者特有の勝手な)想いが強かったせいでしょう(ところで,一度でいいから自分だけのアンソロジィを編んでみたい,という欲求は,読書好きの方ならどなたにもあるのではないでしょうか?^^;;)。
 気に入った作品についてコメントします。

栗本薫「商腹(あきないばら)勘兵衛」
 殉死を迫られていた老家臣は,若い嫁をもらったことから・・・
 子どもじみた若殿(バカ殿?)に振り回される家臣の悲哀を,ミステリ・タッチに描いた作品です。武家社会の独善的な倫理を描いた点,また後味の悪さは,宮部みゆき「紅の玉」を連想させます。
仁木悦子「粘土の犬」
 使い込んだ金を穴埋めするために,つきあっていた未亡人を殺した男。現場には盲目の少年がおり・・・
 いったいどのようなきっかけで,犯人の犯罪が暴露されるのか,というプロセスが楽しめる倒叙ものミステリです。巧みなミス・リーディングがいいですね。
平岩弓枝「青い幸福」
 身勝手な嫁に殺意をおぼえた姑はある計画を思いつき・・・
 ストーリィそのものはオーソドックスな「嫁姑もの」で,それほど興趣をそそるものではありませんが,嫁のキャラクタ造形がじつに憎々しいところがグッドです。アイロニカルなラストも苦笑させられます。
森瑤子「嘘」
 一夜の情事を過ごした男女は,あるパーティで再会し・・・
 女の深い想いが,なにかの犯罪に結びつくのかな,と思って読み進めていましたが,そんな予想を裏切る展開に驚かされました。洒落た感じが翻訳ミステリを思わせます。
山崎洋子「ラブレター」
 同窓会で再会した女と深い関係になった男を待っていたものは・・・
 女を操っているつもりの自分勝手な男がじつは・・・という皮肉な物語です。下心を持った男はつい疑心暗鬼にかられ,思わぬ誤解をしてしまうものですね。
山村美沙「殺意のまつり」
 若手弁護士・笛木の前に,20年前の殺人事件の“真犯人”を名乗る男が現れた。服役している男は冤罪なのか・・・
 二転三転,事件の錯綜した深層が明らかにされるラストが,じつに小気味よいです。そのラストを象徴する,気の利いたタイトルも楽しいです。

98/03/31読了

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