東野圭吾『予知夢』文春文庫 2003年

 「俺たち一般人は,すぐに神秘的な方向に流されるんだよ。それを食い止めるのが科学者の仕事だろ」(本書「予知る しる」より)

 『探偵ガリレオ』に続く,帝都大学助教授湯川学を探偵役としたシリーズの第2集です。5編を収録しています。
 前作が「科学トリック」を「売り」にし,実際,それをメインに据えた体裁であったのに対し,今回は,ちょっとニュアンスが違うように感じられます。前作の最終話「離脱る ぬける」のようなオカルティックな事件を前面に押し出し,それを論理的に解決することに主眼が置かれ,必ずしも「科学トリック」にはこだわっていないように思えます。むしろ「科学」とは「証拠と論理」の別の言い方なのでしょう。でも,それって「普通の本格ミステリ」という気もしますが(笑)

「第1章 夢想る ゆめみる」
 女子高生を襲ったストーカーは,17年も前から彼女を知っていると言い…
 一見,謎のない事件が,湯川の推理によって,根底から覆される快感がたまりません。またその事件が,じつにアクロバティックな結びつきの末に出来しているところも楽しめました。
「第2章 霊視る みる」
 女が殺された時間,彼女は幽霊となって現れた?
 プロットを複雑なものにするなど,工夫の跡が見られるのですが,どうもネタが「2時間サスペンス・ドラマ」的な印象が拭いきれませんでした。
「第3章 騒霊ぐ さわぐ」
 失踪した夫が最後に立ち寄った家では,不可解な住人が住んでおり…
 科学的トリックと,オカルト現象との結びつきが,もっとも鮮やかなエピソードと言えましょう。また「なぜポルターガイスト現象が起きたか?」が,本編のミステリ的核心と関わっているところもグッドです。本集中,一番楽しめました。
「第4章 絞殺る しめる」
 ホテルで絞め殺された男。容疑は妻にかかるが…
 科学的トリックといえば,言えないことはないのですが,やや弱いですね。「火の玉」も付け足しの観があります。むしろ妻の言動が持つ「意味」の方がおもしろかったです。またラストの「締め」も,湯川らしさが出ていました。「わたしは警察ではない」というのは,名探偵の十八番ですね(笑)
「第5章 予知る しる」
 不倫相手の眼前で首吊り自殺をした女。それを予知した少女がいた…
 科学トリックにありがちな「知らないとわからない系」であったので,その点はいまひとつでしたが,ミステリ的にオチをつけるとともに,そのミステリを巧みに「ずれさせる」エンディングが,個人的に大好きな作品です。

03/08/15読了

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