朝松健『闇絢爛 百怪祭II』光文社文庫 2003年

 いまやこの作者の独壇場と化した観のある,中世を舞台とした時代伝奇ホラー集です。6編を収録しています。

「血膏(ちあぶら)はさみ」
 濃霧の中,落ち武者は,焚き火にあたる木樵に遭遇する…
 うち続く戦乱の中で,疑心暗鬼に駆られる人間たちと,「無垢の瞳」を持ったおそるべき怪異とのコントラストが鮮やかですね。数多くの敵勢の血を吸い取った太刀であっても,血の代わりに膏を流す妖怪には,(文字通り)太刀打ちできないのでしょう。
「妖霊星(ようれぼし)」
 鎌倉幕府の最高権力者・北条高時の暗殺を試みた男は…
 『太平記』に登場する北条高時烏天狗のエピソードを換骨奪胎し,一場のグロテスクな夢幻劇に仕立て上げています。そこに,長崎高資による暗殺の策謀や後醍醐天皇が信仰したという真言立川流を絡めたところが,この作者のオリジナリティなのでしょうね。
「恐怖燈」
 「異形コレクション」の『キネマ・キネマ』所収作品。感想文はそちらに。
「「夜刀浦領」異聞」
 和製クトゥルフ神話のアンソロジィ『秘神』所収作品。感想文はそちらに。
「夜の耳の王」
 後醍醐天皇が,妖僧・文観から献上された“夜耳頭巾”とは…
 SFで,聞きたくもない人の心が“聞こえてしまう”というテレパスの苦悩を扱った作品がありますが,その時代伝奇ヴァージョンといったところでしょうか。後醍醐天皇が聞いたという“声”とは,怪異なのか,独裁者特有の疑心暗鬼が産み出した“内なる声”なのか…
「荒墟(あれつか)」
 足利義教は,赤松満祐邸へ向かいながら,みずからの過去を振り返る…
 「嘉吉の乱」の発端となった義教謀殺を描いた作品。織田信長とともに「天魔」と呼ばれた義教を,一種のサイコさんと設定することで,時代小説ながら,クライム・ノヴェル的な手触りを産み出すことに成功しています。本集で,一番楽しめました。

04/02/14読了

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