サラ・パレッキー編『ウーマンズ・ケース[下]』ハヤカワ文庫 1998年

 上巻と同様,13編を収録しています。
 もともとは26編で1本の作品集ではありますが,こちらにおさめられた作品は,上巻に比べると,ちょっと小粒な感じがします。読み手の「慣れ」のせいかもしれませんが。
 気に入った作品についてコメントします。

ピーケ・ビーアマン「7・62」
 あらすじはちょっと説明しにくいですし,読んでいて全体像がつかみにくいところがあります。要するに読みにくいのですが,その読みにくさが,ある意味で,主人公が抱え込んでいるストレスや狂気を現しているのかもしれません。
スーザン・ダンラップ「またご連絡します」
 遣り手の,しかし周囲から嫌われていた女性人事部長の死の原因は…
 「幽霊探偵」というのは読んだことがありますが,こちらは「天使探偵」です(正確には「天使」ではないようですが)。煉獄で自らの死や罪を受け入れることのできない魂のための探偵という変わった設定です。人事部長が生前連発していたタイトルの言葉,「またご連絡します」がラストで効いてきます。また主人公が自分自身の死の原因を解き明かす,というシリーズもの的な謎もあるようです。
リンダ・グラント「ハムレットのジレンマ」
 20年以上前の姉の死の真相を探ろうとした“わたし”は…
 『ハムレット』やらなにやらを持ち出すところが,少々鼻につくところもありますが,夢の中で“姉”が真に告発していたのは誰だったのか,という,アイロニカルなオチが好きです。
サラ・パレッキー「売名作戦」
 ベスト・セラー作家がなぜかヴィクを目の敵にして貶めようとする。その彼女が殺され…
 ラストが少しバタバタした感じで落ち着きが悪いですが,そこに到るまでは,謎をはらんだ展開で楽しめました。手慣れたものです。
マーシャル・ミュラー「ひび割れた歩道」
 グレーシーと名のるホームレスの過去を調べはじめるセシリーだが…
 グレーシーとセシリーのモノローグが交互に描かれるという形で進行します。両者はけっして劇的に交わるというわけではありませんが,ラストでふたりの姿が二重写しになる感じで,ひんやりとした寒気を感じます。とくに最後の一文が不気味です。グレーシーもかつて同じことを言っていたのでしょう。本作品集(下巻)では一番楽しめました。

98/03/11読了

go back to "Novel's Room"