有栖川有栖『海のある奈良に死す』角川文庫 1998年

 「『海のある奈良』に行ってくる」そう言い残して取材旅行にたった作家・赤星楽が,福井県若狭湾の小浜で死体となって発見された。小浜は「海のある奈良」をキャッチフレーズとした観光地,だが小浜に赤星の足跡はほとんどなかった。“私”有栖川有栖は,赤星が構想中だったという『人魚の牙』をすくい上げるため,火村とともに彼の死の真相を追う・・・。

 「作家アリス&火村助教授シリーズ」です(「火村&アリスシリーズ」と書かないと,火村ファンに怒られるかな?)。ど派手な『ミステリークラブ』のあとに読んだせいもあってか,「えらい地味な作品やなぁ」というのが第一印象です(苦笑)。ま,あんまり派手なトリックやプロットをぶちあげるタイプの作家さんではないので,この作者らしいといえば,らしい作品です。それでも,作者自身が「あとがき」でも書いているように,舞台がクローズド・サークルの多いこの作者にしては,東京―奈良―福井小浜と,けっこうあちこち移動する点,多少「派手目」なのかもしれません。また,小浜をめぐる伝説や祭の解説は,「トラヴェル・ミステリ」を思わせるような雰囲気をもっています(といっても,その手の作品はほとんど読まないから,はっきりしたことは言えませんが)。

 物語は,赤星楽を殺害したのは誰か? という“フー・ダニット”に,アリバイ崩しを味付けしたような感じで進んでいきます。アリスと火村が事件の関係者に会い,質問を繰り返し,データを蓄積していく,そこから火村の推理が展開される,というオーソドックスな展開です。途中,新たな殺人事件が発生し,ふたつの事件はどのように関係するのか,といった新たな謎が提出され,物語にアクセントをつけているように思います。メイントリックのひとつは,その元ネタに対して,わたしが不信感を持っているので,いまひとつ楽しめませんでしたが,事件に直接関係のないと思われていたことが,火村の推理によって一躍中央に躍り出るあたりの展開は,本格ミステリの醍醐味という感じで,小気味よいですね。
 ラストの『人魚の牙』や「海のある奈良」をめぐる謎解き(?)はちょっと不完全燃焼というところがありましたが・・・。

 ところで,火村がアリスを表した言葉「浪花のエラリー・クイーン」には,関西弁を喋るエラリー・クイーンを想像してしまい,笑ってしまいました。
 また我孫子武丸がなかなかうがった「解説」を書いていて,こちらも楽しめます。

98/06/12読了

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