中島らも『永遠(とわ)も半ばを過ぎて』文春文庫 1997年

 発端は,写植屋の波多野(“おれ”)のところに,高校時代の同級生で,詐欺師の相川(“僕”)が,突然転がり込んで,住みついてしまったことだった。不眠症の波多野は,相川からもらった睡眠薬を飲んだ晩,混濁する意識の中,自分でも覚えのない“小説”を書いてしまう。それに目をつけた相川は,出版社相手に一仕事たくらみ・・・。

 詐欺師の話であります。それも『奪取』(真保裕一)のような,職人気質で,億単位の金をあつかうような詐欺師ではなく,舌先三寸で,せいぜい数百万を騙し取るの関の山,あっさり素人さんに見破られるような三流詐欺師の話です。物語の最初の方では,相川の流暢な,それでいて誠意のかけらも感じられないような図々しい言い回しに,ちょっと辟易するところがありましたが,慣れというのは怖いもので,読み進んでいくうちに,そんな相川の弁舌が,妙に心地よく感じられてしまうから不思議です。とくに,ヤクザの大親分の娘を,知らぬとはいえだまくらかしたことから,その子分に殺されかかる場面での情けなさが,どうも憎めません(笑)。

 ところで,こんなこと書くと作者に失礼かもしれませんが,医師協会の「年史」作成のプレゼンテーションの席上,相川が“造本家”なる肩書きを騙って,とうとうと捲し立てるあたり,あるいは,それにつられて,睡眠薬でラリった波多野が一席ぶつあたり,どこか作者自身の作風に近いものが感じられます。また,詐欺師が「付け焼き刃」で,知識を寄せ集め,それをひとつの「物語」に仕立て上げ,相手を騙す,という手口もまた,この作者お得意の,嘘なんだか本当なんだか,よくわからない屁理屈にも共通するところがあるように思えます。この作者が「屁理屈こねたホラ話」を書いたときのおもしろさは,『ガダラの豚』で証明済みですから,この作者自身,やはり詐欺師めいた資質があるのかもしれません(これは褒め言葉ですよ,作家としての。いやほんと(笑)。

 とにかく,さくさく読めて,笑えて,読後もすっきり(ラストが,ちょっと唐突ですが,なかなかいいです),楽しい作品です。なんでもこの作品,このたび映画化されるそうです。相川がトヨエツで,波多野が佐藤浩二,後半から出てくるヒロイン(?)宇井美咲が鈴木保奈美・・・・。なんで,日本の映画って,配役を原作より若くしようとするんでしょうかねえ(日本の映画だけじゃないかもしれないけど)。

97/09/15読了

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