真保裕一『奪取』講談社 1996年

 暴力団にはめられ,莫大な借金を作った友人を助けるため,偽札つくりに手を染めた「おれ」。一見,うまくいったと思えた犯行は暴力団にばれ,「おれ」は追われる羽目になる。その逃亡中に知り合った,なにやらいわくありげな「じじい」と小生意気な女子中学生「幸緒」。「おれ」はじじいと幸緒とともに, 「完璧な偽札」をつくること決意する。が,かつての暴力団の影がふたたびちらつく。「おれ」は「完璧な偽札」をつくることができるのか?

 初っ端から全開,といった感じです。第1部で,銀行の紙幣識別機を欺いて,大金をせしめるところから,暴力団の襲撃から「じじい」とともに脱出するまで,まるでハリウッドのアクション映画を見ているようです。ところが第2部にはいると,詳しい偽札つくりのノウハウがえんえんと描かれていて,ちょっと中だるみ,といった感じがぬぐえません。物語にリアリティをもたせる意味もあるのかもしれませんが,もう少し,さくさく進めてもいいんじゃないでしょうか? ところが第2部後半になると,ふたたびアクション活劇。おおおお,と言っているうちに,第3部に突入します。で,いよいよ偽札つくりとコンゲームの始まりですが,コンゲームのほうは,もう少し凝ったものにしてほしかったですね。裏の世界に精通しているはずの江波にしては,間抜けのような気がします。最後はともかく,なんかトントン拍子に行き過ぎて,ご都合主義的な感じがしないでもありません。また結末も,ありがちのようなところもあります。それと第2部と第3部で,偽札つくりのタイムリミットの設定が同じようなので,ちょっと白けてしまいました。

 それでも,物語を一気に押し進める筆力は相変わらずです。読んでいて,「この先どうなる,この先どうなる」といった感じで,しっかり寝不足になってしまいました。いろいろ文句をつけましたが,これも真保裕一に対する期待が高いと言うことで・・・。それから読んでいて,安部公房の小説の一節(だったかな?)を思い出しました(細かくは違うかもしれません)。

「罰がなければ,逃げる楽しみがない」

1997/03/01読了

go back to "Novel's Room"