佐々木譲『そばにはいつもエンジェル』集英社 1997年

 レポート作成のため,高原のペンション「タンネンバウム」を訪れた大学院生の“ぼく”を待っていたのは,初音という中学生の少女とエンジェルという名のシェパードだった。先々週,事故で両親を亡くした彼女は,村の中では異質で,孤立した存在だった。そんな彼女に同情する“ぼく”だが,彼女の周囲でには死のにおいが立ちこめていた・・・。

 佐々木譲というと『ベルリン飛行指令』『エトロフ発緊急電』といった重厚な作品を思い浮かべますが,これはホラー色をもったストレートなサスペンスです。初出は1984年,『ベルリン』などより前の作品です。またもともとは集英社コバルト文庫所収の作品で,ジュヴナイルのようです。だからでしょうか,『ベルリン』や『エトロフ』とは,かなり手触りの違う作品でした(タイトルもなんとなく雰囲気が違いますものね)。作家さんの中には,ジュヴナイル出身で,その後エンタテインメント作家として活躍する人もけっこうおられるようですから,この作者もそんなおひとりなのでしょう。本屋でこの作者の作品が3冊ほど新書版で並んでいて,「いったいどうしたんだ?」と思ったのですが,どうやら初期作品の復刊のようです。

 物語は,一種の「魔性の少女もの」とでもいうのでしょうか。ペンションの少女・初音が憎む人間が,つぎつぎと死んでいく,いずれも事故死と判定されるが,主人公の“ぼく”は,彼らの死に不審をいだく,いったい彼女は,彼らの死とどういう関係にあるのか・・・,という感じで,さくさくとストーリーが展開していきます。もうちょっとひねりのひとつもほしいところですが,やはりそこはジュヴナイルなのでしょう,身も蓋もない言い方をすれば,予想通りの展開とエンディングを迎えます。その点,ひねた読者(笑)としては,どうも物足りません。それでもストレートな分だけ,一気に読み通せる作品ではあります。文章も読みやすいですし。

 この作品は,ある初冬の土曜日から木曜日まで,というわずか6日間の物語です。何度も書きましたように,この作者の作品は,短期集中決戦型の設定でサスペンスを盛り上げるものが多いようですが,そんな作風は,すでに初期の頃から培われていたのかもしれません。

97/10/06読了

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