アーロン・エルキンズ『洞窟の骨』ハヤカワ文庫 2000年

 フランスの旧石器時代洞窟から発見された人骨は,数年前の他殺死体だった。さらに被害者と思われる人物が勤めていた先史文化研究所では,3年前に遺物捏造事件が発生していた。研究休暇でその地を訪れたギデオン・オリヴァーは,警察から骨の鑑定を依頼されるとともに,捏造事件について研究所のメンバーにインタビュウを申し込む。ところが,彼が鑑定を行う直前,骨は何者かに盗まれてしまい・・・

 20世紀最後の読書は,『楽園の骨』以来,3年ぶりの「スケルトン探偵シリーズ」の第9作です。殺人事件に,旧石器時代の遺物捏造事件が絡むお話・・・いやはや,タイムリィというのか,なんていうのか。もっとも原作は昨年発表されたもののようですから,いっさい関係はないんでしょうが・・・

 この作者の筆運びの巧みさは,これまでのシリーズで周知のことではありますが,この作品では,それが十分に味わえます。旧石器時代の洞窟で発見された他殺死体,3年前に起こった旧石器時代遺物の捏造事件,なにごとかを隠しているような素振りを見せる先史文化研究所の所員たち,ギデオン・オリヴァーの鑑定直前に盗まれる遺骨,そして殺人事件の発生・・・と,とにかく要所要所に「山場」を作り,ストーリィをサクサク展開させていくところは,心憎いばかりに巧いですね。個人的には,捏造スキャンダルのため,研究所を追われるようにして辞めた元所長の事故死をめぐる謎が発覚し,それまでの事件の様相が180度転換するところが一番心地よいです。
 そしてこのシリーズの「売り」は,ギデオンが,その人類学的な専門知識を駆使して,事件の思わぬ真相を明らかにするところにありますが,今回もそれがしっかり盛り込まれています。少々,専門的すぎてよくわからないところもありましたが(笑),前に引かれていた伏線を上手に回収しています。また,鑑定の対象となる−いわばギデオンの独断場となる−人骨が盗まれてしまい,「さて,どうなるか?」というところで,意外なところから,それでいてけっして不自然でないところから「救いの手」が伸びてくるという展開は絶妙ですね。
 ただ,ラストのバタバタした感じは,これまた相変わらずだな,という感じもあります。とくに本編では,真犯人が判明する「手がかり」が,やや専門過ぎるきらいところがあり,「え? え?」と戸惑っているうちに,クライマクスへ雪崩れ込んでいくように思えます。ギデオンの「専門性」がちょっと裏目に出てしまったところもなきにしもあらず,といったところでしょうか。
 しかし,そんな不満は残るものの,上に書いたような巧みなストーリィ・テリングが楽しめる作品です。

 それにしても,ネアンデルタールは,人類なんでしょうかね? それとも違うのでしょうか? 気にかかるところです。

00/12/31読了

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