井上雅彦監修『侵略! 異形コレクションII』廣済堂文庫 1998年

 『ラヴ・フリーク』に続く「異形コレクション」の第2集は,“侵略”テーマのホラー・アンソロジィです。
 『人形使い』や『盗まれた町』,『トリフィドの日』といった“侵略”をテーマにしたSF作品に,一時期はまりました。とくに暴力的に攻撃してくる侵略ものよりも,「知らず知らずうちに気がつくと・・・」的な侵略ものが好きでした。しかしいま考えると,それはSFが好きというより,“侵略”テーマの持つホラー的側面に対する嗜好のように思えます。
 ですから,さまざまなタイプの“侵略”ホラー18編をおさめた本アンソロジィはなかなか楽しめました。気に入った作品についてコメントします。

かんべむさし『地獄の始まり』
 ある日,世界各地の少年たちが,空を見上げて叫んだ「なにかがいる!」と…
 本当に“侵略”されたのは,産まれた子供たちなのでしょうか? それとも・・・。そんなラストがなんとも薄ら寒いです。
小中千昭『夜歩く子』
 ある男が見たという謎の子ども。その正体を追うテレビ・クルーが見いだしたのは…
 大仰な文章よりも,淡々とした抑制の効いた描写が,むしろ恐怖を倍加させる場合があります。テレビのシナリオ風の体裁をとった本作品は,そのことを十分知った上で,それを効果的に用いているように思います。ただオチは見当がつきますね・・・。
森下一仁「おだやかな侵入」
 地球にやってきたインベーダたち。彼らはあまりに脆弱で…
 人が従属するのは,強いものに対してだけではありません。ちょうど可愛いペットを「守ってやりたい」と思うとき,人はペットを守っているつもりで,じつはペットに従属しているように・・・。
草上仁「命の武器」
 侵略者カッコー,それは男と女の関係を,そして生殖を激変させた…
 子孫の再生産という,地球上の生命にとって,もっとも根源的な部分に対する“侵略”は,なんともおぞましいまでの迫力がありますね。エンディングもいいです。
安土萌「ママ・スイート・ママ」
 みよちゃんが帰ってくると,ママはお菓子になっていた…
 お化粧したお母さんを,子どもはときどき別人と思い込むことがあるそうです。そんな子どもの心と“侵略”とを融合させたあたりが秀逸です。
斎藤肇「さりげなく大がかりな」
 ある日“彼ら”はやってきた。さりげなく,しかし大がかりに…
 オチがなんとも楽しい作品です。読み終えて,あらためてタイトルを見ると,笑えます。
津原泰水「聖戦の記録」
 公園にたむろする“兎派”の老人たち。その無法に怒りを覚えた“おれ”は…
 読点のない独特の文体は,最初読みづらいところがありますが,慣れてくると,一種粘液質な魅力があります。幻想的で皮肉っぽいエンディングもいいですね。
菅浩江「子供の領分」
 記憶喪失の“僕”の夢は,人の役に立つこと…
 “侵略”という言葉を,大胆に換骨奪胎し,リリシズムあふれる作品に仕上げています。それを××××を使って描いているところも巧いですね。

98/01/23読了

go back to "Novel's Room"