夢枕獏『新・魔獣狩り4 狂王編』ノン・ノベル 1997年
夢枕獏『新・魔獣狩り5 鬼神編』ノン・ノベル 1998年
夢枕獏『新・魔獣狩り6 魔道編』ノン・ノベル 1999年

 古代日本に莫大な黄金と“鬼道”をもたらしたのは徐福だった。そして徐福の血を引く鬼奈村一族,御子神一族,腐鬼一族,ケセン一族が,“瑞祥”の出現とともに,“封禅の儀”を執り行うべく蠢きはじめる。国家を覆すと言われる“封禅の儀”とは,いったい何なのか? また1000年前に腐鬼一族と空海が結んだ「約定」とは? さらに新たな肉体をもって蘇った空海=黒御所の目的とは?

 さて前作『魔獣狩り』には,日本史上の巨人空海という「核」がありました。その「核」をめぐって,さまざまな「遊星」たちが,ときに対立し,ときに組み,ときに抗争し合いながら,「闘争絵巻」を繰り広げました(このような視点で,本シリーズ1・2・3巻について感想文を書きました)。
 もちろん本シリーズにおいても,「空海」はストーリィの「核」となっています。いや,前シリーズでの「空海」が「ミイラ」であったがゆえに,いわば「空白の中心」であったのに対し,本シリーズでは,黒御所との奇怪な融合を経て,「魔人」として蘇り,牽引力となってストーリィを引っ張っている点,より強力な「核」となっていると言えましょう(この展開には,正直,驚きました)。

 しかしこの新シリーズには,もうひとつ「幹」とも呼ぶべきものが導入されます。
 中国古代の三星堆文明から始まり,秦始皇帝徐福,そして邪馬台国卑弥呼へ,さらに日本神話へとつながる「幹」です。まさに「伝奇小説」の名にふさわしい,「歴史の裏面」「歴史の闇」を貫く1本の「幹」です。
 その巨大な「幹」からは,さまざまな方向へ「枝」が伸び,その「枝」には膨大な数の「葉」がつきます。さらには「幹」に絡まりつく多種多様な「蔓」や「苔」。その「巨木」が産み出す「果実」には,いろいろな「動物」や「昆虫」「鳥」たちが集まるでしょう。空海という「核」さえも,この「巨木」に「接ぎ木」されることで,一本の,しかしきわめて太い「枝」として,葉を茂らせているとも言えます。
 作者は,この巨大な「樹木」としての物語を描き出そうとしているのではないでしょうか? 『魔獣狩り』が,「核」の求心力によって成り立っている「点」の物語するならば(<やや語弊もありますが),新シリーズは,「線」の,そして「面」の物語へと拡充していると言えるのかもしれません。
 この4・5・6巻は,その「幹」の姿が次第次第に姿を現すとともに,そこから派生する無数の「枝葉」が,まだまだ伸張しているところと言えましょう。その「枝葉」の伸び具合,絡まり具合を楽しみながら,その「枝葉」の「根っこ」,そして「幹の根っこ」へとたどり着くのを期待しながら読み進めていくべきなのでしょう。

 しかしその一方で,気になることもあります。腐鬼一族に伝わる「歴史」(上で言う「幹」)について,その真偽を問う言葉に対し,「ほんとうかどうかわからないが,それを信じている」と彼らは言います。あるいはまた,空海=黒御所は,日本各地での“瑞祥”について,その原因はともかく,それを“瑞祥”と判断した時点で,それは“瑞祥”になると言っています。さらに「幹」を伝える「腐鬼文書」も,それぞれに分かれた一族で,固有なものを持っているとも言います。
 つまり,「幹」とは,それを「幹」と見るものがいるゆえに「幹」となる,それゆえ,それは「実在」としてではなく,「幻想」としても成立しえるわけです。「幹」を実在のものとして行動している登場人物たちですが,それが「幻想」へと転じる可能性も,どこかに残されているような気がしてなりません。
 まぁそれは,単なる穿ちすぎの深読みしすぎ,というきらいもありますから,これからのお楽しみ,ということで。

06/05/07読了

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