夢枕獏『新・魔獣狩り1 鬼道編』ノン・ノベル 1992年
夢枕獏『新・魔獣狩り2 孔雀編』ノン・ノベル 1993年
夢枕獏『新・魔獣狩り3 土蜘蛛編』ノン・ノベル 1995年

 蓬莱山の黄金,鬼道,空海の秘法“四殺”…手中にすれば覇王となれるというそれらをめぐって,邪悪な欲望が渦巻きはじめる。かつて邪教集団“ぱんしばる”との戦いで交錯した男たちの運命もまた,ふたたび重なり合う。九門鳳介,文成仙吉,美空,そして毒島獣太…男たちの戦いを通じて,日本史の裏面に隠された「闇」が,その姿を現しはじめる…

 10年前,この新シリーズが始まってからは,「完結したら読もう」と思っていたのですが,(予想はしつつも)いっこうに終わる気配がない(笑) で,古本屋さんで1〜3巻が並んでいたので,つい購入。例によって一気読みです^^;; それにしても「新・魔獣狩り序曲」と題された『魍魎の女王』を読んだのが,発刊直後ですから,1987年,もう15年前。はっきり言って,ほとんどストーリィを忘れています。
 でもご安心,作者の方も,こういった読者のことも考えているようで(というか,「序曲」から5年も間を置いたという負い目からか(笑)),本編第1巻で,新ストーリィを早くも転がしはじめつつも,これまでの経緯について適宜触れており,わりと違和感なく読み進めることができました。

 さてまず1巻「鬼道編」は,個人的に勝手に名称を付ければ「遊星編」。このシリーズの「核心」となるべき「磁場」の存在は,すでに匂わされながらも,その正体はいまだはっきりと示されません。元“ぱんしがる”の首領黒御所が,その権力の源泉としていたらしい「蓬莱山の黄金」空海が唐の国より持ち帰った“四殺”鬼道に深く関わるらしいが,眠り続け,その実態が不明な鬼奈村典子などなど,それらが物語を牽引する「磁場」です。そして磁場に引き寄せられ,あるいはその影響を受けながら,さまざまな「遊星」たちが動き始めます。その遊星とは言うまでもなく,シリーズのメイン・キャラ,九門鳳介であり,文成仙吉であり,美空であり,猿翁であり,今回,新たに毒島獣太が加わるわけです。前作「魔獣狩り」もそうでしたが,このシリーズとは,強力な磁場の周囲を巡る,個性的で魅力ある「遊星群」の物語とも言えましょう。

 第2巻「孔雀編」は,「遊星接触編」。まだ「衝突」まではいかない「接触」です。その中心となるのが腐鬼一族。その人並はずれた膂力でもって,笑みを浮かべながら,次から次へと敵を「千切っていく」その姿は,倫理とか道徳とかとは無縁の存在です。それに対する「遊星」のふたつのスタンス。鳳介は,持ち前の性格によるところもあるのでしょうが,どこか飄々と梵と行動をともにしますが,仙吉は,明確な敵対的な態度を取ります。このシリーズのおもしろさのひとつは,「精神(サイコ)ダイバー」という,SFタッチの幻想性とともに,(この作者のプロレスをはじめとする格闘技に対する愛着ゆえの)「肉体と肉体の激突」「肉弾戦」が挙げられます。前作でそれは猿翁が産み出した幡虎と仙吉との戦いに集約されていましたが,今回はどうやら梵vs仙吉のようです。この巻で描かれるのは,その前哨戦。互いに相手が死ぬまでは決着のつかないこのふたり,おそらくはシリーズのクライマクスにそのバトルが用意されているのでしょう。

 そして第3巻「土蜘蛛編」は,いわば「磁場発動編」です。物語の核心となる「磁場」の正体が,まだ全貌は見せないながら,徐々にその正体を現しはじめます。ここで作者が選んだ素材は,邪馬台国徐福,そして三星堆遺跡の仮面です。邪馬台国は,すでに物語の冒頭から“鬼道”という言葉が出てきていたので,「お約束」といったところですが,三星堆は,ちょっと意外でした(3巻のカヴァでその仮面が描かれていたので「あれ?」と思っていたのですが)。
 しかし,この「三星堆遺跡の仮面」というのは,小説家の想像力をいたく刺激するもののようですね。たとえば京極夏彦『塗仏の宴』で取り上げられていますし,マンガでは永久保貴一「伝奇屋事件簿」で描いています。仮面の異形性とともに,黄河文明とは離れた四川の地で発見されているという点もまた,文字通り「奇を伝える」という伝奇作品の趣向にマッチしているのでしょう。
 さて,これら「古代史ネタ」の描き方は,あまりにストレートすぎて,少々ぎこちないところがありますが(三星堆の元ネタは「参考文献」に挙げられている徐朝龍『謎の古代王国』ですね),ようやく「磁場」の正体が姿を現してきます。一方,モンスタと化した黒御所に「サイコ・ダイブ」した毒島獣太が見た「空海」の姿。これらがいかに結びつくのか,そしてその結びつきによって産み出されるであろう新たな「磁場」が,「遊星群」にいかなる影響を与えるのか,つまりは「舞台装置」がある程度出揃った物語がどのように展開するのか,次巻以降の展開が楽しみです。

03/09/28読了

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