大沢在昌『毒猿 新宿鮫II』光文社文庫 1998年

 台湾から,凄腕の殺し屋“毒猿”が新宿に潜入した。狙う相手は,彼を裏切った台湾マフィアのボス・葉威。毒猿が葉を殺せば,暴力団間の戦争にも繋がりかねない。それを阻止するために,新宿署防犯課の鮫島は,台湾の刑事・郭栄民とともに毒猿を追う! しかし毒猿の復讐の牙は着実に葉威に迫っていた・・・。

 自殺した友人から警察の暗部を記した書類を預かったため,「はぐれ刑事」とならざるをえなくなった鮫島の孤独な戦いを描いた『新宿鮫』の第2作です。

 前作も,多少「ちょっと無駄じゃない?」という部分があるものの,スピーディな展開でサクサクと読める作品でしたが,今回はそれ以上に,全編緊張感に満ちたストーリィ展開です。ミステリを評する言葉としてこういった言い方は,もしかすると誤解を招くかもしれませんが,下手に中途半端な“謎”を絡ませることなく,ストレートに“マン・チェイス”に徹したところが功を奏しているのでしょう。
 さらにその“マン・チェイス”は,毒猿を追う鮫島&郭栄民コンビ(?)と,復讐の相手・葉威を探し求める毒猿という,ふたつの流れを交互に描き出すことで,緊迫感を盛り上げています。また郭と毒猿をめぐる浅からぬ因縁や,“警官”であることを通じて鮫島と郭との間で響き合うシンパシィ,殺し屋だとわかってからも毒猿に思いを寄せる中国残留孤児二世の奈美の姿などが,随所に盛り込まれていて,それが物語に深みを与えているように思います。それも展開のスピード感を沈滞させることなく描かれているところがいいですね。
 そしてクライマックス,新宿御苑での鮫島,毒猿,葉威(とその背後にいる暴力団・石和組)の三つ巴のバトルもまた迫力があります。とくに毒猿が石和組と葉威に襲いかかるさまは,アクション映画を見るような,一種のケレン味があって,手に汗握るシーンといえましょう。
 とにかく一度読み始めたら,最後まで一気に読み通すことのできる作品であります。

 前作は『このミス'91』で第1位,本作は『このミス'92』で第2位でありますが,個人的には前作よりも,こちらの方が「買い」ですね。

98/08/13読了

go back to "Novel's Room"