ジョナサン・ケラーマン『サイレント・パートナー』新潮文庫 1991年

 かつての恋人シャロン・ランサムがピストル自殺した! 新聞でそのことを知った臨床心理医アレックス・デラウェアは,その死に疑問を抱き,友人の刑事マイロ・スタージスとともに調査を開始する。そして不可解な彼女の過去を追ううちに,大富豪リーランド・ベルディングの謎に包まれた人生にたどり着く。いったいシャロンは何者だったのか? 彼女の死に秘められた謎とは?

 アンソロジィ『愛の殺人』に収録されていた,この作者の短編「愛あればこそ」がなかなかおもしろかったので,前々から読みたいと思っていた作家さんでしたが,書店に並んでいるのはいずれもヴォリュームのある長編なので,ちょっと腰が引けているところがありました。そこで,正月休みを利用して読もう,と思い,とりあえず本書を手に取りました(「デラウェア・シリーズ」の途中の作品だったみたいです(^^ゞ)。

 で,最初から恐縮なのですが,じつは,こういった「精神分析もの」というのは,あまり得意ではないのです^^;; 現実の「精神分析医」や「臨床心理医」の方々が,心に病を持つ多くの人々の救いになっている事実はとりあえず置いておいて,フィクションの中に出てくる彼らは,なにかというと「あなたが悩んでいるのは,幼児期のトラウマのせいです」とか,「君の苦悩の原因は,性的抑圧なのだ」とか,あまりに単純というか,傲慢というか・・・,そんなイメージ(偏見?)が強く,少々馴染めないところがあります(サンプル数が少ないからかなぁ・・・(^^ゞ)。
 ですから,本書の前半を読んでいるときは,「う〜む,なんだかなぁ」という感じがつきまとっていました(実際,そういった方向に流れていくような雰囲気もありましたし・・・)。
 ただ半ばくらいから,シャロンがたどった数奇な運命,その背後に見え隠れするアメリカ上流社会の暗部などなど,サスペンスフルな展開で楽しめました。とくに主人公の調査で,前半に顔を出していた登場人物たちの関係がするすると結びついていくところはいいですね。ラストの“意外な真相”も,ちょっと陳腐な感じが否めませんが,主人公との“対決”シーンはなかなか迫力があります。
 そういった意味で,下手に「精神分析」に頼ることなく,ストーリィを展開させているところは,好感が持てました。ただやっぱりシリーズものを途中で読んだせいか,常連キャラの人物像がいまひとつはっきりしなかったのが残念です。

 ところで「主要登場人物」の紹介のところで,主人公が「精神科医」となっていますが,本文中では,「臨床心理医」になっています。アメリカのシステムはよく知らないのですが,日本ではたしか「精神科医」と「臨床心理医(士)」とは,ともに心の病を治療する職業ではありますが,まったく別物だったと思います。心理学系の「臨床心理士」は「カウンセリング」のみで投薬はできないのに対し,医学系の「精神科医」は投薬ができます(だったと思います。もし間違っていたらご連絡ください)。主人公のキャラクタがこの作品(シリーズ)の「売り」のひとつでしょうから,そこらへんはきっちり区別していただきたいと思います。

99/01/05読了

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