アラン・ライアン編『戦慄のハロウィーン』徳間文庫 1987年

 同文庫の『恐怖のハロウィーン』と同様,ハロウィン・ネタのアンソロジィです。訳者仁賀克雄によれば「姉妹編」だそうで,『恐怖の…』に比べると,やや新しめの作家さんを集めているようです。13編を収録しています。

ロバート・R・マッキャモン「ドアにノックの音が……」
 ハロウィンの夜,村の会合に呼び出されたダンは,そこで…
 俗信・迷信と言われていることがじつは…というのは,ホラーの定番と言えましょう。悪魔(?)が要求する物の「さりげない残酷さ」は,そんな俗信・迷信の中に含まれているものに近いのかもしれません。
チャールズ・L・グラント「眼」
 ひとり街をさまよう男には,ハロウィンをめぐる暗い過去が…
 スーパーナチュラルな怪異は登場しませんが,やはり「むごい物語」です。たとえ妖怪たちが姿を消した現代だっても,ハロウィンには,昔と同様,むごさが似合うのでしょう。
ホイットリー・ストリーバー「ニクソンの仮面」
 大統領は,訪れた子どもから,自分の仮面をもらうが…
 ハロウィンが,「物の怪」たちの跳梁する日だとするならば,ホワイトハウス(あるいは永田町)は,毎日がハロウィンなのかもしれない,という一種の政治寓話なのでしょう。みずからの失脚につながる謀略を,ハロウィンに決定するというところが「ミソ」なのかな?
ピーター・トレメイン「アイリッシュ・ハロウィーン」
 結婚生活に悩むケイティは,息子とともに,人里離れた山荘で一週間を過ごし…
 離婚の危機を迎えた夫婦,伝統が息づくアイルランド,子どもの「空想の友人」…ホラー作品でしばしば見られる素材を,巧みにミックスしたお話作りになっています。オチが平凡なのが,やや難ですが。
スティーヴ・レイズニック・テム「トリックスター」
 弟のアレックスはトリックスターだった…死んでからも…
 弟の,度の過ぎた悪戯を嫌悪しながらも,そこにみずからの内に潜む欲望を現実化してくれることに対する憧れを持つ,そんな主人公のアンヴィバレンツな感情が,ラストの着地へとスムーズにつながっています。「魔」と「人」が入り乱れるハロウィンという舞台設定ともフィットしていますね。
マイケル・マクドウェル「ミス・マック」
 ミス・マックは,親友のジャニスと,週末に沼で魚釣りをするのがなによりの楽しみで…
 不条理な災厄ならともかく,男のいやらしい嫉妬心から生まれた策謀によって,ミス・マックが被る災難については,ホラー作品に「勧善懲悪」を求めるのが愚の骨頂だとわかっていても,なんとも腑に落ちない気持ちにさせられます。
ガイ・N・スミス「うつろな目」
 娘を連れ去った男を追い,父親は銃を持ってハロウィンの夜へ飛び出した…
 殺意が「魔」を引き寄せるのか,それとも「魔」が殺意を呼び起こすのか。主人公が「内なる声」を聞きながら,しだいに狂気にも似た殺意を募らせていくところは迫力があります。
アラン・ライアン「ハロウィーン・ハウス」
 ハロウィンの夜,少年たちはガールフレンドを“幽霊屋敷”へと連れて行くが…
 「禁断の地」を冒してしまう理由として,かつては無知や無信仰があり,さらに世俗的欲望や好奇心が加わり,そして現代では「若者の悪ノリ」という理由もリアリティを持つようになったのかもしれません。映画『13日の金曜日』との親近性から,そんな「架空の歴史」を思いつきました。
クレイグ・ショウ・ガードナー「夜の三つの顔」
 コリンが,奇妙な老人クロフォードから,ハロウィンの夜に与えられた“力”とは…
 う〜む,正直よくわかりません。結局,主人公が得たスーパーナチュラルな“力”というのは,いったい何だったのでしょう?
ビル・プロンジーニ「カボチャ」
 そのカボチャは,邪悪な霊気を放っていた…
 日本にハロウィンの風習がないせいなのか,それともカボチャが持つユーモラスな感じからか,あるいは「ドテカボチャ!」という罵倒語によるものなのか,ホラーと言うより,なんだかギャグめいた感触があります。「魔性のカボチャ」ねぇ…
フランク・ベルナップ・ロング「ハロウィーンの恋人」
 車椅子の老女は,看護婦に,その森へ連れて行ってくれとしきりにせがんだ…
 ハロウィンの夜の「邪悪さ」が,キリスト教による歪みであると仮定するならば,「それ以前」から訪れるものは,むしろ正邪を超えた「なにか」なのかもしれません。
ラムジー・キャンベル「リンゴ」
 子どものリンゴ泥棒を見つけた老人は,追いかける途中,頓死してしまい…
 いわれがどうであれ,今のハロウィンの「主役」は子どもたちなのでしょう。そんな子どもたちを襲った恐怖を,ユーモアあふれた文体で描いています。小便をちびっていた臆病な少年が,妹を守るために奮闘するところは,なかなか凛々しくて良かったです。
ロバート・ブロック「いたずら」
 ハロウィン−大人たちはそれぞれの夜を過ごし,そして子どもたちは…
 子どもたちの訪れを待つ家,子どもたちを送り出した家…いくつかのハロウィンの夜の情景を積み重ねながら,それを上手に「煙幕」として,サプライズ・エンディングへと展開させていく手腕は,さすがにこの作者です。本集中で一番楽しめました。

04/05/06読了

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