清水義範『戦時下動物活用法』新潮文庫 1997年

 世にさまざまなブームがありますが,清水義範の手にかかると,なんともほほえましいというか,滑稽というか,情けないというか。10編よりなる短編集です。

「空腹姫」
 ダイエットネタです。数年前,訳あってダイエットしたことがあります。ご飯を半分に減らし,肉の替わりに魚と野菜,間食はいっさい食べず,職場まで片道30分毎日歩きました。その結果,半年で12キロの減。ダイエット中,職場の女性からいろいろなダイエット方法を聞きました。リンゴやらオオバコやらコンニャクやら・・・。彼女たちはじつによく知っており,いくつかは実践したことがあるそうでした。にもかかわらず彼女たちは,10時と3時にでるおやつはしっかり食べていました。その姿を見て,彼女たちがいろいろなダイエットをするのは,もちろん痩せることが目的なのでしょうが,それ以上に,いろいろなダイエットを試してみるのを楽しんでいるんだ,と結論づけたのでした。え,今の体重ですか? それはナ・イ・ショ・・・。
「ダイヤの花見」
 落語の「長屋の花見」のパスティーシュです。長屋の住人ならぬJRの電車たちが集まってワイワイやるというお話。よくもまあ思いつきますね,こんなネタ。「ハウステンボス号」みたいな横文字列車が外国人というのは笑ってしまいました。
「平成×年竹林館占」
 高島易断のパスティーシュ。いやあ,大笑いしました。この手の本って,占いというより単なる処世訓みたいな内容が多いですもんねえ。で,結局は当人の努力次第,なんて占いの意味がないじゃないか!
「栄養伝説」
 これも笑ってしまいました。タンパク質派肉教徒とか,野菜派カロチン教徒とか,あやしげ派ゲテ教徒とか,ほんと,ほとんど宗教の世界ですね。目のつけどころが秀逸です。
「服を買う」
 お父さんが服を買うまでの,それだけの話をここまで膨らませるとは・・・。『バスが来ない』でも書きましたが,日常的な風景を微に入り細に入り描き出すのは,この作者がもっともお得意とするやり方ですね。それにしても観光地でよく見かけるお父さん方の服装,ほとんど「ヤ」の字の人ですよ。なんとかなりませんかねえ,あの感覚。ただ最後の娘の一言は,ちょっと哀しい・・・。
「トライアル・アンド・エラー」
 パソコンを買ったお父さんが,その前で右往左往するのに,奥さんは・・・,というお話。その昔,電化製品が壊れると,修理するのはお父さんの役目でした。ところが,いつの頃からか,家庭の電化製品の中身は複雑になるばかり,お父さんの手に負えるような代物ではなくなってしまいました。きっと,父権の失墜というのは,お父さんが家の電化製品を修理できなくなってしまったこととも関係があるのでしょう(<本当かよ?)。
「果てしなき覚醒」
 突然,眠れなくなってしまった男の話。この作品集ではちょっと異色です。寝つかれぬ夜,「二度と眠れないんじゃないか」という妄想にとり憑かれることってありませんか? そんなお話です。でも結末はありきたりです。
「こだわりの旅」
 いますねえ,こういう人。「旅行好き」なんじゃなくて,「旅行している自分に酔っている人」という人。それも行き先がマイナーであればあるほど,また行き着くのがたいへんであればあるほど,「なんかすごい旅行したなあ。おれってやっぱりすごいなあ」と勘違いしている人。すみません,そんな人が身近にいたものですから,単なる個人的な感想です。
「味覚戦争」
 どんな美食家の夫婦でも,子どもができるとそんなこと言ってられない,という話。経験はないですが,そんな話はよく聞きます。そうならないと海原雄山と山岡史郎みたいな親子になってしまいます(笑)。結末がひねってあって,にやりとします。
「戦時下動物活用法」
 ペットブームのパスティーシュ(なのでしょうか?)。最初の方の犬や猫,馬,牛あたりは多少はまとも(そうか?)なのですが,だんだんおかしくなっていって,終わりの方の,金魚,猿,山羊になるともうめちゃくちゃ。「日常風景重箱の隅つつき型」と並ぶ作者の十八番「妄想肥大暴走型」の作品でしょう。

97/07/03読了

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