西澤保彦『スコッチ・ゲーム』角川書店 1998年

 私立清蓮(これん)高校の女子寮で殺人事件が発生。被害者は,卒業を目前に控えた高瀬千帆のルームメイトで恋人,鞆呂木恵。恋人を失ったショックから立ち直れない彼女の前で,事件は連続殺人に発展,つぎつぎと清蓮高校の女子生徒が殺されていく。事件が未解決のまま,郷里を離れ,安槻大学に入学した彼女は,匠千暁に相談。そして2年前の事件に決着をつけるため,彼女は帰郷する・・・。

 「タック・シリーズ」の第4弾であります。孤高を保ち,他人との交際を拒絶するタカチこと高瀬千帆の過去がいよいよ語られます。作者自身が「あとがき」で書いていますように,タカチを主人公にし,なおかつ「人間関係」をテーマに持ってきている点で,『仔羊たちの聖夜(イヴ)』の続編あるいは姉妹編といったところです。時間的にも,事件そのものは2年前ですが,解決編(?)は『仔羊』直後のお正月です。
 さて今回も,タックこと匠千暁の「妄想推理」が炸裂(笑),彼は,タカチが語る事件の経過のみから,真犯人を推理してしまいます。タックの推理はいつものパターンですが,むしろタカチの記憶力に驚いてしまいます(^^;;(それだけ彼女にとって衝撃的な事件だった,ということなのでしょうが)。
 西澤作品では,しばしば,仮説だけが提示され,検証もなしに「これが真相」みたいなエンディングが見受けられ,いささかもの足りない部分があるのですが,今回はしっかりと「物的証拠」もあり,「現実的な着地」を見せる点で,なかなか楽しめました。その「物的証拠」も盲点を突いたものであるとともに,伏線もきっちり引かれて好感が持てます。
 そう,このような「妄想推理」を主体とするミステリの場合,泡坂妻夫の『亜愛一郎シリーズ』のように,どれだけ巧みに伏線が張れるかが,ミステリとしてのおもしろさを左右すると思います。今回は,その伏線の張り方がじつに巧みです。ところどころ「あれ?」と思わせる描写があり,「どういう意味やろうか?」と思うのですが,テンポのよいストーリィを追っかけているうちに,その伏線が,最後の最後で一気に効いてきて,「ふむふむ,なるほど」と納得,感心するところが多々ありました。
 「妄想推理」に対する個人的な好き嫌いはともかく,西澤作品としては,かなり上手に仕上がっている作品だと思います。

 ところで,『仔羊』の感想文で,「この物語(=『仔羊』)は,親子関係における“独善的支配”への「告発」にはなっていても,「解答」にはなっていない」というようなことを書きました。本書は,人間関係全体に話を広げることで,前作の「告発」に対する全面的な「解答」とはいえないものの,ひとつの「解答案」を引き出しているのではないでしょうか。前作から始まったタカチ(とタック)の“巡礼”は,最終ゴールではないにしろ(最終ゴールはあるのか?),この作品でひとつの峠を越したのではないかと思います。
 次回は,ボアン先輩やウサコを主人公にした作品を考えているとのこと,楽しみです。

98/04/20読了

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