梶尾真治『さすらいエマノン』徳間デュアル文庫 2001年

 「約束をかわすというの,人の生命の貴重な“時”を確保しあうことだもの。私は必ず守るわ」(本書「まじろぎクリィチャー」より)

 地球上の生命,40億年の記憶を受け継ぐ少女エマノンを主人公としたシリーズの短編集第2作です。5編を収録しています。

「さすらいビヒモス」
 地球最後の象に父親を殺された由紀彦は,復讐を誓うが…
 たとえば「命」という視点から,「人」という,ひとつの「形」を見た場合,どんな風に見えるのでしょうか? それは他の「形」とどれほどの違いがあるのでしょうか? あるいは,他に見られぬほどの異形なものなのでしょうか? 地球上の生命の記憶を受け継いでいるというSF的設定でもって,「命」の一形態,ヴァリエーションのひとつとしての「人」を,改めて考えさせる作品です。
「まじろぎクリィチャー」
 化学兵器によって,草一本生えない土地となった“禁忌区”に,エマノンは約束を守るために足を踏み入れる…
 「壊す」ことは,いとも簡単にできても,それを「創る」ことは,きわめて膨大な力と時間を必要とするのでしょう。「エルムヘッドは地球そのものだ」というステフのセリフは,けっしてフィクショナルなものではありません。そしてサロメの哀しい姿と末路は,人間そのもののそれなのかもしれません。
「あやかしホルネリア」
 ある不吉な予感に導かれて,海辺の街を訪れたエマノンが,そこで見たものとは…
 『おもいでエマノン』が,エマノンと人との関わりを重視したエピソードが多かったのに対し,本作品集は「自然」(あるいは自然と人との関わり)をテーマにしたエピソードが目立つように思います。本編も,不気味な「赤潮」を素材にしながら,「自然」の「人間」に対する「怨念」を描いています。その奇怪な「赤潮」の姿は,前作「まじろぎクリィチャー」のサロメとは正反対でありながら,同質の哀しみを纏っているように思えてなりません。
「まほろばジュルパリ」
 アマゾン奥地の故郷に帰ろうとするフーリオは,不思議な雰囲気の少女と同船し…
 実際,南米ではUFOが頻繁に目撃されるという話を聞いたことがあります。それを,現在,急速に進行するアマゾンの密林の破壊と結びつけたお話です。「トンデモ」になってしまいそうなところを,楽観的にはなれないラストを描くことで,かろうじて回避しているように思います。
「いくたびザナハラード」
 孤独な生活を送る倫子の元に,“ザナハラード”を名乗る,不可思議な“声”が聞こえてきて…
 これまた「トンデモ」的な展開を見せるとともに,「もしかしてメタ?」とも思わせておいて,ラストでツイスト。こういう結末も十分にあり得たにも関わらず,その方向への流れを思いつかせないところが,この作者の巧さなのでしょう(単にわたしが鈍いだけか?)。「作者」の受け答えは,はしゃぎすぎで,ちょっと興醒めします。

01/03/14読了

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