若竹七海『サンタクロースのせいにしよう』集英社文庫 1999年

 “わたし”こと岡村柊子を主人公とした連作短編集です。彼女の友人彦坂夏美や,柊子が居候する家の大家,「天然系」松江銀子などともに,彼女が遭遇する「事件」を描いています。

「あなただけを見つめる」
 失恋した“わたし”は,衝動的に,友人・夏美の紹介で松江銀子の家に下宿することになったが…
 まずはキャラクタ紹介,といった感じの強い,オープニングの1編です。不気味な老婆の幽霊を登場させ,これが「メインのネタか?」と思わせておいて,別のネタにつなげていくところは,連作短編集を意識した巧みな筋運びですね(最初読んだときは,ちょっと欲求不満になりましたが^^;;)。
「サンタクロースのせいにしよう」
 ご町内のうるさ型,鈴木さんが,クリスマス・イヴの晩,ゴミ捨て場で死体を発見し…
 既読作品です。感想はこちら
「死を言うなかれ」
 銀子が,姉・沓子から聞いた,一晩でチューリップが根こそぎなくなったという不思議な話の真相は…
 要するに「知らないとわからない」系のネタではありますが,それに至るまでの,柊子と曽我竜郎との「推理合戦(?)」が楽しめます。エンディングで明らかにされる真相とタイトルとの響き合いもいいですね。
「犬の足跡」
 “わたし”が毎晩のように見る夢。それは“わたし”が犬になった夢だった…
 たしかに,セメントの表面に点々とついた犬の足跡って,よく見かけますよね。やっぱり気持ちいいのかな?(笑) 「犬」をキーワードにしながら,ふたつの「事件」を,縄をあざなうように描いていくところは,読んでいて心地よいです。
「虚構通信(フィクション・コール)」
 銀子の姉で女優の卯子が自殺した。それ以来,“わたし”のもとに奇妙な電話がかかるようになり…
 サイコ・サスペンスのテイストを持った異色の1編。内木田しのぶは,なぜ虚構の「殺意」を作り上げようとするのか,という謎の解答は,いまひとつ理解しがたいものがあるものの,そこまで追いつめられていく彼女の気持ちの有り様は,思わず「ぞくり」とします。彼女のしゃべり方のピントのずれ方も薄ら寒いものがあります。
「空飛ぶマコト」
 銀子とともに台湾旅行へ旅だった“わたし”は,飛行機の中で奇妙な男女を見かける…
 少々作為性が強すぎる感じがありますね(もっともこの作者の作品は,全般的に作為性が強いですが・・・^^;;)。このエピソードでも,てっきり銀子と柊子の珍道中がメインとなると思いきや,それをばっさりと切り落として「肩すかし」を喰らわせるところは,この連作の特徴なのかもしれません。
「子どものけんか」
 花見に出かけた夏美,竜郎,“わたし”。そこで夏美と竜郎がけんかをはじめ…
 密室状況でビデオを壊したのは誰か? という,いかにもミステリ的謎が提示されますが,むしろ,その「事件」に“わたし”がどのように対応するか,という点にウェイトが置かれているように思います。そして「事件」を通じて,新たな一歩を踏み出そうとする主人公の姿はすがすがしいものがあります。

99/12/28読了

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