今邑彩『ルームメイト』Cノベルズ 1997年(-o-)

 萩尾春海は,下宿探しの途中に知り合った西村麗子と,マンションの1室を借りることになった。ところが彼女には平田由紀という名の別の生活があった。さらに彼女にはもうひとつの顔が・・・。いったい彼女は何者なのか? 大学の先輩・工藤謙介とともに,春海は彼女の行方を追う。しかし彼らの前に,陰惨な殺人事件の影が・・・。

 流行りといえば流行りなのでしょうね,多重人格ものであります。この前読んだ多重人格もの『EM(エンバーミング)』が,もう(*o*)としか思えなかったせいもあってか,今回も途中まではえらく似ていて,「ああ,またか」という感じが強かったです。いや,実際よく似ているんですよね,設定が。もしかすると,この作者,『EM』をかなり意識しているんじゃないんでしょうか? 「同じような設定だったら,わたしなら,こう描くわ」という感じで・・・。あ,これはまったくの邪推です。でも『EM』に比べれば,はるかにストーリー展開が巧いですね(笑)。

 物語はすごくハイテンポに進みます。春海のルームメイト“西村麗子”が多重人格であることは,かなり早い部分で明らかにされます。そして物語の前半1/3あたりで,その“西村麗子”も殺されてしまいます。むしろメインの謎は,冒頭で描写された“パーカー事件”の実行犯である“俺”とはなにものなのか? そしてやはり“西村麗子”を殺した“俺”とは誰なのか? へとシフトしていきます。ここらへん,「え,それじゃあ,いったいどうなるの?」という感じで,意外な展開といえば意外なのですが,読んでいてとまどうほどに,あわただしいです。また物語の視点が,春海,工藤,そして工藤の従兄弟でフリーライターの武原と,ころころと変わるのも,読んでいてちょっと落ちつきの悪い,不安定な感じを与えているようです。“西村事件”以降は,先に書いたような“俺”の正体,そしてその特定の重要な手がかりとなる“西村麗子”の“カセットテープ”の行方へと重心が移り,そして,しょうしょう中だるみのところもあるものの,「意外な真相」が明らかになるエンディングへと,雪崩こんでいきます。まあ,あまり意外ともいえないんですが・・・。ミスリーディングもあからさまですし・・・。ラストの落ちも,いかにも,というもので・・・。でも,主人公と“俺”との対決シーンは,緊迫感があり,それなりに盛り上がります。全体として,「ダーッ」と始まり,「ダーッ」と進んで,「ダーッ」と終わる,そんな印象が残った作品です(「ダーッ」ってなんじゃ?)。

97/08/31読了

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