戸梶圭太『レイミ―聖女再臨―』ノン・ノベル 2000年

 深夜,大地震によって倒壊寸前となった廃ビルに集まった男女。彼らの目的は,儀式によって“先生”を復活させることだった。しかし,疑心暗鬼に駆られた彼らは互いに争いはじめる。喰らい合いながらともに谷底へ落ちてゆくがごとき戦いの果てに,彼らを待ち受けていたものとは? そして“先生”の正体とは?

 莫大な財宝や金塊,現ナマをめぐって,複数のキャラクタが争い,殺し合う,というシチュエーションは,船戸与一などが得意とする冒険小説によく見られる世界ではありますが,本作品の前半,まさにその「ホラー・ヴァージョン」といったところです。
 本編では,今にも崩壊しそうなビルの中で,亜紀・和人・雅治・幸雄の4人が,「先生」をめぐって争いを繰り広げますが,その理由は,船戸作品のような世俗的なものではありません。めいめいが持っている「先生」の躰の一部をくっつけることで復活させるというオカルティックなものです。そのせいでしょうか,各キャラクタの間で交わされる駆け引きや裏切り,暴力には,どうしようなく殺伐で酷薄な感じを受けます。クラスメートが互いに殺し合うという怪作『バトル・ロワイヤル』よりも,ずっと没人間的な手触りがあります。しかし,その殺伐さが,絶え間ない偽りの協力と裏切りを導き出し,「いつなにが起こるかわからない」的な緊張感を生み出しています。
 一方,そんなストーリィと並行して,「先生」の躰の一部を持つもうひとりの人物・紫乃の物語が描かれていきます。彼女は,死んだ(?)「先生」の過去を探ろうと,私立探偵に依頼します。そして徐々に「先生」の正体が明らかにされていきます。この紫乃というキャラクタも,じつに殺伐とした感覚の持ち主で,彼らの殺伐さ,酷薄さこそ,この作品の底流を流れる「怖さ」なのかもしれません。

 さて,廃ビルを舞台にした闘争劇と,紫乃をメインとした追跡劇とが交互に描かれ,ストーリィはスピーディに展開していきます。闘争の行方と,「先生」の正体をめぐる謎が牽引力となっていて,さくさくと読んでいけます。前者のサスペンスと,後者のホラー・テイストがよくマッチしていていると言えましょう。
 ですから,「着地さえ上手ければ佳作になるのでは」と期待していたのですが,終盤になって「う〜む」と首をひねってしまいました。ラストにいたって,闘争劇の真の理由,「先生」の正体が明らかにされるのですが,それがまた,なんとも「説明調」といいますか,登場人物のひとりがとうとうと語ってしまうのです。それまでのスピード感が失速し,冗長な展開に陥ってしまっているように思います。
 さらに,突如,とんでもないキャラクタが登場して,それまでの物語を「チャラ」にしてしまうようなエンディングはいただけません。連載に行き詰まったマンガが,最後に大地震でも起こして「はい,おしまい」としてしまうのと似たような印象を受けます。「をいをい,こんなのが出てくるなら,最初っから,こんなシチュエーションにはならないんと違うか?」という気もします。

 中盤までのスピード感,緊迫感あふれる展開が楽しめただけに,この幕の引き方は残念ですね。

00/06/18読了

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