はやみねかおる『怪盗クイーンの優雅な休暇(バカンス)』講談社青い鳥文庫 2003年

 「怪盗の犯行は,芸術でなければならないんだ。財宝を盗むことで,人々に赤い夢を見せないといけないんだ。それが怪盗の美学だ!」(本書 クイーンのセリフ)

 豪華客船“ロイヤルサッチモ号”の処女航海に招待された怪盗クイーン。休暇,休暇と喜んで参加したクイーンだが,船で待っていたのは,彼に恨みを持つ者たちの罠だった。クイーンを狙う暗殺集団“初楼(ういろう)”の面々,インターポールの探偵卿ジオット,さらに“怪盗志願”王女イルマ姫や謎の爆弾魔“グーコの竜(ドラゴン)”が加わって,クイーンは休暇どころじゃない!

 「怪盗クイーン・シリーズ」の第2作。前作『怪盗クイーンはサーカスがお好き』の舞台が,タイトルにあるように「サーカス」だったのに対し,今度は豪華客船です。こういったゴージャスなシチュエーション設定は,いかにも「怪盗」にふさわしいというわけで,やはり,この作者「ツボ」をしっかり押さえていますね。
 しかし例によってクイーンはマイペース。友人(仕事上のパートナー)ジョーカーや,人工知能RDとのかけあい漫才で笑わせてくれます。で,『黒衣の花嫁』とか『死の抱擁』といった「大きなお友だち」向けの小ネタとともに,「蝶ネクタイには,変声器もついているのかい?」という「小さなお友だち」向けのギャグも挿入しているところは,サービス精神の発露でしょうね(ところで「大きなお友だち」向けネタで,船上のシアターで流す映画のライン・アップ…『タイタニック』『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』『カサンドラ・クロス』って,とても航海中・旅行中には見る気になりませんね(笑))。

 さて,トリックよりもスリルとサスペンスを重視していると思われる本シリーズ,やはりメインとなるのは,“初楼(ういろう)”の暗殺者の面々との対決でしょう。なかには茶魔との「脱力系(笑)勝負」もあるとはいえ,それぞれに緊張感のある戦いです。とくに好きなのがギャンブラーズキアとのポーカー勝負(ポーカーの手役の説明が入るところが,いかにもジュヴナイルですね)。「賭け金」の引き上げ方の破天荒さ,手札を見せあうシーンの緊張感(ツイストもグッド),最期に明かされるギャンブラーとしてのクイーンの素顔など,スリルたっぷりの展開が楽しめます。
 また“初楼”の首領緋仔との最後の対決。けれん味たっぷりの「技」の応酬もおもしろいですが,決着シーンで見せるクイーンの優しさ。。一見,残酷にさえ見える行為の背後に隠されたクイーンの真意は,さすが主役!といった感じですね。

 そして本編で忘れてならないのが,イルマ姫ジョーカーの絡みでしょう(「絡み」といっても,もちろんHシーンじゃありませんよ(笑))。グーコの竜(ドラゴン)が仕掛けた爆弾を目の前にして,ジョーカーが凛々しいこと,凛々しいこと。で,作中人物さえ「お約束」というくらいの爆弾解体の「お約束」シーンを,イルマ姫のアイデンティティに深く関わる形で鮮やかに処理しているところは,じつに清々しいものがあります。またジョーカーとイルマ姫の別れ…「あ,なるほど。これははやみね版『ローマの休日』なんだ」と思わせる哀しくも美しい幕の引き方ですね。この後味の良さこそが,この作者最良の持ち味と言えましょう。

03/07/27読了

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