黒田研二『ペルソナ探偵』講談社ノベルス 2000年

 プロ作家を目指す6人の男女−カストル・ポルックス・アンタレス・スピカ・カペラ・ベガ。彼らが集うチャットルーム“星の海”では,主宰者のカストル以外,お互いの本名,住所,メールアドレスはいっさい知ることが禁じられていた。そんな彼らがそれぞれに遭遇した事件について,チャットで相談し・・・

 メフィスト賞受賞作『ウェディング・ドレス』でデビュウしたくろけんさんの第2作です。今回の「著者近影」はかっこいいですね。天体望遠鏡も,ちゃんと「上」を向いているみたいですし(笑)

 さて物語は,作家志望の6人の男女が遭遇する,いくつかの事件が短編風に語られていきます。最初の「フィンガーマジック スピカの事件簿」では,女子高生のスピカが頼まれた奇妙なアルバイトの謎と,私立探偵の殺人未遂事件が描かれます。トリックを成立させるためのシチュエーション作りに苦労がしのばれる作品ですが,丁寧にひかれた伏線とその回収が小気味よいです。
 また「殺人ごっこ アンタレスの事件簿」では,サークルの合宿で開かれた「殺人ゲーム」が題材です。展開としては,ややひっかかる部分もありましたが,ゲームなのか,殺人事件なのか,という曖昧さが,ストーリィにサスペンスを与えています。また「捜査会議」での,あるセリフの謎解きが笑えました。
 そして「キューピッドは知っている カペラの事件簿」では,半年前に行方不明になった夫が残した手記を手がかりに,妻であるカペラがその真相を追うという内容です。わたしとしては,綾辻行人の「ある作品」を連想させるトリックながら,それをもうひとひねり加えた,このエピソードが一番楽しめました。

 と,まぁ,各編,小技の効いた独立短編としても楽しめるわけですが,前作でアクロバチックな構成で楽しませてくれたこの作家さんのことですから,もちろんこれだけで済むわけがありません(笑)
 タイトルにありますように,本編のキーワードは「ペルソナ(=仮面)」です。ハンドル・ネームはわかっていても,顔も本名も住所もわからないという,インターネット上でのコミュニケーション形態を上手に生かして,各短編と並行して起こる,もうひとつの事件を描いていきます。ミステリで,もう古典的ともいえるようなさまざまなトリックを,インターネットというニュー・メディアを導入することで,リアリティを持たせることに成功しているようです。
 また一見独立した短編が,じつは最後になって結びつき,1編の長編となるという構成も,いまやかなり定着した感がありますが,「最終話 五人プラスひとり ポルックスの事件簿」において,各独立短編を上手に結びつけ,さらにその「結びつけ」に二重三重のツイストを仕掛けているところは,ちょうどドミノ倒しのドミノ板が,パタパタとつぎつぎに倒れていくような痛快感がありました。

 ミステリの方向性としては,前作を引き継ぐものと思われますが,前作に比べ,より凝った構成をとり,またエンディングの余情など,お話作りとしては,こちらの方がおもしろく読めました。ただ構成によるトリックは,どうしても「使い減り」を起こしてしまいがちになるので,できれば奇抜なトリックをメインにすえた,ど真ん中直球勝負の作品も期待したいところです。

00/12/24読了

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