東野圭吾『パラレルワールド・ラブストーリー』Cノベルズ 1997年

 コンピュータ会社バイテック社に勤める敦賀崇史の前に,大学院時代,通学中に見かけた女性が現れる。中学時代からの親友・三輪智彦の恋人として。1年後,崇史はその彼女・津野麻由子と同棲しながら,バイテック社でリアリティ工学の研究にいそしんでいた。しかし次第に彼は日常生活に違和感を感じ始める。あれほど親しかった智彦のことを思い出すこともなく,また麻由子との最初の出会いも記憶と違っている。彼の「記憶」と「現実」が徐々にずれはじめ,歯車が狂っていく。そしてすべての記憶が甦ったとき・・・。

 物語は「SCENE」と題された章と,「第○章」と題された章が,交互に並べられる形で進行していきます。「SCENE」と題された章は,「俺=敦賀崇史」が,三輪智彦から,恋人として津野麻由子を紹介される場面から,時間軸に沿って進んでいきます。一方,「第○章」とされた部分では,生活に違和感を感じた崇史が,みずからの過去を探索する形で,つまり時間軸を逆行する方向で,進んでいきます。時間軸上の2つの時点から,向かい合う方向で進行するふたつのストーリーが出会うとき,真実が明らかにされる,という構成になっています。

 私が個人的に好きな「みずからの過去の探索もの」です。が,困ったことに,私は,つい先日,同じ作者の『分身』を読んだばかりなのです。『分身』が,空間的に離れたふたりの少女が,みずからの過去を求めて,交錯する,という構造になっているのに対し,本作品は,それが同一人物における「現在」と「過去」に置き換えられているものの,構造的にまったく同じになっています。ともにハイテク技術を扱っているあたりにも,似たような手触りを感じてしまいます。そのため,どうしても読んでいる途中,『分身』との共通性がちらつき,いまいち楽しめませんでした。しかし,これはあくまで個人的なものですので,ひとつの物語としてみた場合,慣れた筆使いで,テンポよくストーリーが進行し,さくさく読めて,それなりにおもしろいと思います。ミュージッシャンが同じ曲をちがうアレンジで演奏するように,作家もまた同じ構成を,ちがうヴァリエーションで「演奏」しても,それはそれでいいと思います。もっともアレンジだけ演奏していたら,客からブーイングが出るでしょうけど・・・(ちょっと甘いかなあ)。

97/03/07読了

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