東野圭吾『分身』集英社文庫 1996年

 北海道に暮らす氏家鞠子。幼い頃,母を亡くした彼女は,みずからの出生に疑いをもち,東京の父の母校を訪ねる。そこで知り合った女性から,彼女とそっくりの少女が存在することを知らされる。東京に住む,そのそっくりの少女,小林双葉は,母の反対を押し切ってテレビ出演した直後,母親がひき逃げされ,死んでしまう。母の古い友人に招かれ,北海道に飛ぶ双葉。入れ違いに上京する鞠子。北海道と東京で,ふたりの少女がみずからの出生を求めて捜索をはじめるが・・・。

 お恥ずかしい話で,同じ作者の『変身』(講談社文庫)とごっちゃになっていて,「へえ,集英社文庫でも出てるんだ」としか,思っていなかったんですよね。先日それに気づいて購入,読んでみて「あああ,なんでこんなおもしろい作品を今までほおっておいたんだああ・・・」と,後悔してしまいました。

 こういった,自分の出生とか「失われた過去」とかを捜す作品って,ミステリに限らず,基本的に好きです。自分が両親の子供ではない,という幻想というのは,誰でも経験があることではないでしょうか。あるいは自分の将来に不安を感じるときに,自分がいままで歩んできた道のりなり,今の自分の由来なりに,関心が向くときがあります。だからこういうストーリーに感情移入しやすいんですよね(私だけかな?)

 物語の「ネタ」は,比較的早くから見当がつきます。しかし,主人公たちが探索の過程で,少しずつ少しずつ明らかにされていくプロセスは,サスペンスにあふれています。また,鞠子と双葉のふたりの視点が交互に設定されているため,こういった探索ものの物語がおちいりがちな,一本調子なストーリー展開からまぬがれ,緊張感があります。物語の途中で,真相を知っていく少女たちの揺れ動く心の描写も,なかなかよくできています。そしてラストシーン・・・,もう思わず目が潤んでしまいました。

97/03/04読了

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