はやみねかおる『踊る夜光怪人』講談社青い鳥文庫 1997年

「教授から教えてもらったことは,推理のしかただけじゃないわ。」
   ・・・・・・・
「名探偵は,謎を解くだけが仕事じゃない。みんなが笑顔になれるような解決をしなくちゃいけないってことも。」
(本書より)

 夜な夜な桜林公園に現れるという“踊る夜光怪人”。怪人の正体は何者? その目的は? そのころ岩崎亜衣は,ボーイフレンドのレーチこと中井麗一とともに,虹斎寺に伝わる謎の暗号に挑戦していた。夜光怪人と暗号はどういう関係があるのか? 名探偵・夢水清志郎の奇想天外な謎解きが始まる!

 「名探偵夢水清志郎事件ノート」の第5作。第4作の『魔女の隠れ里』だけが書店に並んでいなかったので,ネタばれの不安がありましたが,「まぁ,いいや」と勝手に判断して,1作とばして読み始めました。幸いネタばれはありませんでした(でも本作品に出てくる,雑誌『セ・シーマ』の編集者・伊藤真里って,もしかすると『魔女』で初出なのかな?)。

 さて今回は,冒険活劇編です(笑)。やっぱり「男の子って,こんな洞窟や洞穴の探検が好き」なのです。自分が普段暮らす足下=地下に,自分たちの日常とはまったくかけ離れた洞窟や洞穴があったら,おまけにそこに「お宝」が眠っていたとしたら・・・,こういった想像は,やはり胸がドキドキするようなものを秘めています。それも,中学生にとっての「日常」の象徴である「学校」の地底にあったとしたら! これはもう二重三重にワクワクものです(もしかすると「学校はもと墓地だった」という都市伝説も,日常の足下に非日常が埋まっている,という畏れを交えた願望の現れなのかもしれません<あぁ,陳腐だ!)。
 ですから,常識はずれのレーチはともかく,純文学少年カマキリ,いやさ片桐文芸部長だって,「少年探偵団」の魅力にはかなわないのであります。思い切って言ってしまうと,ミステリを読むのって,「宝探し」のもつドキドキワクワクを感じたいというのが根っこのひとつなのではないでしょうか?

 本編のメイン・テーマは,そういった「宝探し」につきものの「暗号」であります。江戸時代の錬金術師(詐欺師?)斎藤宗歩がいずこかに隠したという“黄金の仏像”はどこにあるのか? 暗号はいったいなにを語るのか? そして夜光怪人との関係は? という風に物語は進んでいきます。
 「暗号」の方は,あまり得意でないので,なんとも言えませんが,夜光怪人の謎解きは,見当はつくものの,少なくとも津島誠司の「叫ぶ夜光怪人」よりは説得力がありました(まぁ,本編にあふれるファンタジィ色を受け入れた上での「説得力」ですが(笑))。また「首がはずれる」方は見え見えでしたが,「踊る」の謎解きは,情景描写のごとき伏線が効いていてよかったですね。

 それと「幕間」として挿入された「レーチの文学的苦悩」,う〜む,いいですねぇ。そうなんだよねぇ,電話を前にして悩むんですよ,少年は,うんうん(<思い当たる節があるらしい(笑))。
 ところで,すでにパターン化した冒頭のエピソード,本文だと教授がつくった暗号は「いすの上」なのですが,13頁のイラストは「いすの下」になってますね。まちがい? それともシャレ?

98/08/15読了

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