小林泰三『肉食屋敷』角川ホラー文庫 2000年

 4編を収録しています。

「肉食屋敷」
 山中の個人研究所を訪れた“わたし”が見たものは…
 ホラー作品の「定番」のひとつに,発掘調査によって太古の凶暴な「異形」や「異星人」が掘り出され,復活,人々を恐怖に陥れるというパターンがあります(先日読んだ,映画『遊星からの物体X』の原作「影が行く」などがその典型でしょう)。本作品も「大枠」としては,その系譜に乗るものと言えましょうが,そこに,作中でも触れられている『ジュラシック・パーク』で一躍有名になった,DNAによって太古の生物を復元するという手法を導入したところは,「ああ,そういう方法があったか!」と思わせる新鮮さを感じました。古い皮袋に入れられた新しい酒,といったところでしょうか。
「ジャンク」
 「異形コレクション」『屍者の行進』に収録されています。
「妻への三通の手紙」
 「綾,これはおまえへのラヴレターだ」…寝たきりの老妻にあてた手紙の背後にある夫の真意は…
 三通の手紙からなる作品,というと,夢野久作の佳作「瓶詰の地獄」を思い起こさせます。また「現在」から「過去」へという配列も類似しています。しかし「瓶詰」が,「狂気」から「正気」へと遡ることによって,読了後に「狂気」の哀しさを浮き彫りにしているのに対して,本作品では,逆に,愛情あふれる老妻への手紙から始まり,しだいしだいに,その背後に潜む「狂気」を露わにしていく点,まったく逆のベクトルを持っています。むしろその点,オーソドックスな手法といえるかもしれません。しかし,冒頭で示された愛情に対するプラス・イメージが強いだけに,それが「狂気」によって支えられることが明らかにされるラストは,恐怖よりももの悲しさが先立ちます。
「獣の記憶」
 “僕”の人格の中にいる“あいつ”は,“僕”の知らぬところで,残忍な振る舞いを繰り返す。そしてついに殺人までが…
 読了後,「う〜む,やられたぁ」と思いましたが,それは,この作家さんに対するわたしの先行イメージがあったことによるところが大きいでしょう。ネタ的には,類似した作品を最近読んだことがあります。またラストの処理も,やや物足りないところもあり,ミステリとしては,もう少し明解さがほしかったように思います。

00/10/11読了

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