鮎川哲也編『猫のミステリー』河出文庫 1999年

 1986年に出た『猫のミステリー傑作選』を改題,新装版として刊行したアンソロジィです。テーマは文字通り「猫」。メジャー,マイナーを取り揃えるとともに,変わりどころでは新田次郎の作品なども含んだ11編を収録しています。
 気に入った作品についてコメントします。

都筑道夫「檸檬色の猫がのぞいた」
 猫嫌いの夫は,やたらと顔を出すレモン色の猫に苛立ち…
 猫をきっかけとしながら,夫婦間の不和を巧みに浮き彫りにしていく展開は,さすが手慣れたものです。そしてこの作者らしい「小粒トリック」を織り交ぜながら,ラストで思わぬ「異界」が立ち現れてくるところも,この作者ならではお話づくりと言えましょう。
川島郁夫「乳房に猫はなぜ眠る」
 愛憎渦巻く高原療養所・白樺荘で起こった不可解な殺人事件の真相は…
 「猫」をめぐる不気味な言い伝え,狭い人間関係であるが故に煮詰まっていく愛憎,雪降る夜の密室殺人,と,まさに定番的アイテム満載の作品で,すっきりとまとまった本格ミステリに仕上がっています。伏線がちょっと微妙にアンフェアか,という感じもありますが,すぐそばに「なるほど」と思わせる一文もあり,巧く作っているなと思わせます。ラストの余情もいいですね。
津井つい「猫に卵」
 拾ってきた猫が卵を産んだ…
 この作者は『ホシ計画』に,ユニークな手触りのショートショート2編が収録されていますが,本編は,それらとはまた違ったテイストながら,ラストが怖いような苦笑を誘うような,奇妙な雰囲気を持ったショートショートです。
角田喜久雄「猫」
 復員してきた夫は,あるラジオ番組を聞いて,人が変わったようになり…
 「猫とスポーツはどういう関係にあるのか?」という冒頭の「問い」が,奇妙かつ魅力的ですね。この手の作品の場合,主人公の「思いこみ」と,事態の「真相」とのギャップなり,ツイストなりが作品の眼目になるのでしょうが,本作の場合,ややインパクトが弱いかもしれません(どちらもグロテスクすぎて,インパクトが強すぎるのかも?)
新田次郎「猫つきの店」
 洋裁店を開くために買った店には,昔から居ついた老猫がおり…
 「犬は人につき,猫は家につく」なんて言葉があるように,猫にとって「縄張り」は重要なものなのでしょう。そういった意味で,その家を借りた人間は,あとから来た「侵入者」なのかもしれません。「魔性の猫」などと呼ばれますが,「侵入者」が勝手に自滅していく姿は,じつにアイロニカルです。
藤枝ちえ「猫騒動」
 三味線を習いに来ていた老婆が,猫に祟られたという…
 ショート・ショートなんていう外来のしゃれた言葉よりも,古典的な「落とし話」と呼んだ方が適切な作品です。三味線のお師匠さんの粋な磊落さ気持ちよいです。

02/12/13読了

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