ショートショート作家『ホシ計画』廣済堂文庫 1999年

 書き下ろし作品54編を収録したショートショート集。タイトルから,偉大なるショートショート作家星新一に対する敬愛の念が伝わってきます。巻末に,井上雅彦・太田忠司・斎藤肇による鼎談が収録されています。
 気に入った作品についてコメントします。なおショートショートですので梗概は省略させていただきます。

斎藤肇「きりんさん」
 シュールな1編。「きりんさん」とは何者なのか,などと野暮なことは問わず,じんわりと伝わるせつなさを味わいたい作品です。
矢崎存美「プレゼント」
 熊のぬいぐるみを持っている方ならば,思わず振り返ってしまいたくなるような「ぞくり」とする1編。愛らしいぬいぐるみ,薄幸の少女の想いの詰まったぬいぐるみ,そのイメージとのギャップが効果的ですね。
奥田哲也「冬虫夏草」
 奇妙な少年との会話で,しだいしだいに不気味さを盛り上げていき,「収穫の季節だな」という主人公の呟きに匂わされた「描かれざる結末」でもって怖さを表現しているところは秀逸。
藤井青銅「農業後継問題」
 とにかく発想のばかばかしさがナイスですね。それを生真面目に主張するおとーさんの姿も笑いを誘います。そうか,「お化けカボチャ」はそういうためにあったんだ(笑)
藤井俊「宇宙の男たち」
 たとえ偶然がもたらしたものであっても,あらゆる出会いはやはり「邂逅」なのです。いやさ,偶然であるがゆえに,その出会いを大事にすることが,偶然を「邂逅」にするのでしょう。
輝鷹あち「こんど生まれてくるときは」
 主人公の強迫観念めいた思いこみがもたらす皮肉な結末。言葉のダブル・ミーニングはショートショートの基本的手法のひとつとも言えますね。
西秋生「人形愛の夜」
 淫靡なショート・ホラーといったテイストの作品です。ネタ的にはオーソドクスではありますが,けっこう好み^^;; 
小田ゆかり「ウェディング・ベル」
 ショートショートというより,4コママンガを読んでいるような・・・でも考えてみると,ラスト(の一コマ)で落とすという点では,両者には通じるものがあるように思います。
佐々木清高「嵐の夜の客」
 「客の正体は?」というミステリアスな展開と,その意外な正体がいいですね。ただ気取った文体が,少々鼻につくところが難。
津井つい「追憶」
 主人公と母親との「ずれ」を持った展開が,奇妙な味わいを作品に与えています。それにしてもこのペン・ネーム・・・・脱力・・・
伝江田航洋「ぼこにゃん」
 なにが流行するか,わからない時代です。こんな風なきっかけ(?)で流行するものもあるかもしれません。流行の「最前線」にいる人たちの間で囁かされている噂のようなところもあります。
田中哲弥「ユカ」
 たとえ憎悪であっても,無視されるよりは,自分に意識を向けてほしいという気持ち・・・歪んでいるとわかっていても,いや歪んでいるからこそ,より一層深い悲しみが伝わってきます。
五十嵐裕一郎「心霊手術」
 この作品も,言葉のダブル・ミーニングを上手に利用して,ラストで笑いを引き出しています。「何でこんな描写を?」と思わせるところが伏線になっているんですね。
深田亨「SIDE-A」「SIDE-B」
 稲垣足穂を少しばかりマイルドにした感じの幻想掌編集です。「現」と「夢」,「現実」と「虚構」とが同一地平で,するりするりと入れ替わるところが心地よいですね。
藤井青銅「ガト王の靴の」
 もしかすると「王」なるものの本質は,こんなものなのかもしれないと思わせるブラックな味わいのある作品です。伏線も巧妙ですね。
津井つい「鳩たちの夜」
 「伝書鳩」ならぬ「伝言鳩」というユニークな着想で,平凡とも言える男女の別れの哀しみを巧みに切り取ってみせています。前掲「追憶」もそうですが,この作者,平凡な日常風景を,ちょっと変わった切り込みで描くことに本領があるのかもしれません。
吉沢景介「とかげ」
 それは老人が見た一瞬の夢だったのか? それとも邪な魔法による陥穽だったのか? ピアノというロマンチックな素材と幻想性とがよくマッチングしています。
安土萌「DREAM D・・・」
 情熱は技術がないから燃え続けることができないのか。技術があるゆえに情熱はその熱を失ってしまうのか。こういった「喪失の哀しみ」を描かせると,この作者はやはり巧いですね。

01/09/05読了

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