リリアン・J・ブラウン『猫は手がかりを読む』ハヤカワ文庫 1988年

 地方紙“デイリー・フラクション”に美術担当の記者として雇われたジム・クィララン。芸術家,芸術愛好家同士が反目,対立する,その奇妙な町で,彼は画商の殺害事件に遭遇,その真相を追う。そして彼は,一匹の不思議なシャム猫と運命的な出会いをする・・・

 先日読んだ柴田よしき『柚木野山荘の惨劇』の感想文で,猫を主人公としたミステリ・シリーズとして,赤川次郎「三毛猫ホームズ」と,本書をデビュウ作とする「シャム猫ココ」を挙げましたが,その時点では本シリーズは未読でした。そこで1冊くらいは読んでおこうと思い,本書を購入しました。
 で,その読後感なのですが・・・う〜む・・・猫好きの方ならば,別の楽しみ方(たとえば作者のココに対する愛情こもった描写など)をできるのかもしれませんが,残念ながら,ことさら猫好きでもないわたしとしては,あまり楽しめませんでしたねぇ。
 前半,主人公のクィラランが,町に住むさまざまな芸術家,芸術愛好家を取材するという形で,その後に起きる事件の“背景”(と真の主人公(?)ココとの出会い)を描写していくのですが,正直,少々退屈でした。なかなか事件が起きないので,いまひとつ緊張感がありません。
 中盤になって,殺人事件が発生,現場は女性をモチーフとした絵画やオブジェが破壊され,高額な絵画が紛失しています。また美術館では陳列されていた美術品が行方不明になり,おまけにその美術館館長というのが,その町のトラブルの中心人物である美術評論家の酷評により辞任せざるをえなくなった人物であるという曰く付き。さらにパーティ会場での“事故”,新たな殺人,と,ストーリィはアップテンポに進行していきます。ここらへんは,なかなかスピーディな展開でさくさく読めました。
 ですが,ラストに明かされる真相はちょっと・・・。ホームズ役がじつはワトスン役で,という感じで,クィラランの推理が,ココによって覆されるという“意外な真相”を狙ったものなのでしょうが,思わず「をいをい,ちょっと待てよ」という感想ですね。少々ネタばれ気味ではありますが書いてしまうと,それまで顔さえ出ることのなかった人物が,事件の重要人物として,突如登場してしまうのです。まったく,というわけではありませんが,伏線がほとんどないにも等しい展開に,読んでいて,一気に醒めてしまわざるをえませんでした。むしろクィラランの推理の方がすっきりしていてよかったようにも思えます。それと中盤に散りばめられたさまざまな“謎”が,十分に有機的に結びつかなかったのも残念です。単なる「こけおどし」に終わってしまった感じがします。

 そんなわけで,邦訳が6冊も出ている人気シリーズのようではありますが,わたしとしては魅力を感じることができませんでした。

99/06/20読了

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