大沢在昌『涙はふくな,凍るまで』朝日新聞社 1997年

 出張で真冬の北海道へ来た坂田勇吉。一仕事を終えて,小樽を訪れた彼は,小樽港で,追われていたロシア女性を助けようとしたところ,とんでもない事態に巻き込まれてしまう。2年前の大阪の悪夢がよみがえる。おまけに今度のお相手は,暴力団よりたちの悪いロシアマフィア。下手すれば,南港より冷たいオホーツク海で魚の餌となる。ふたたび女性を救うため,身も心も凍るような,厳寒の稚内の夜を疾駆する坂田の運命は?

 『走らなあかん,夜明けまで』に続く,坂田勇吉の物語の第2弾です。今回もまた,ひょんなきっかけから,あまりおつきあいしたくない方たちとのワンナイトチェイスです。が,前回はひたすら暴力団にこづき回されていたという印象が強かったのですが,今回は,多少自分の方から飛び込んでいったきらいがないでもありません。前回の教訓が生きているような,いないような・・・。その結果,ロシア人からたどたどしい日本語で「お前,やっぱり馬鹿」と冷たく言い放たれてしまいます(笑)。

 物語の方はというと,トラブルのきっかけとなった事件あたりは,アップテンポに進みますが,坂田が札幌から稚内に向かうところは,舞台となる北海道の寒さや生活,またロシアに隣接した稚内の様子の描写など,事件の背景説明なのでしょうが,少々中だるみという感じがします。なんだか『はぐれ刑事 旅情編』というような気がしないでもありません。まあ,今回の事態の背景は,前作と比べものにならないほど「でかい」ので,それなりにページ数が必要なのでしょう。しかし,後半からは,一気に緊迫感が高まります。とくに中古車販売店での,クラープ,ワシリィ,坂田の三すくみの図は,手に汗握るシーンです。クライマックスも,なかなか緊張感がありますが,結末がちょっと気に入らないところもあり,わたしとしては,こちらの三すくみのシーンの方が好きです。先にも書いたように,多少スローペースのところもありますが,前作と同様,サクサクと軽快に読める作品でした。

 暴力団からロシアマフィア,はてさて第3弾が出るとしたら,どうなるのでしょうか。海外出張で,某国に出張した坂田は,そこでクーデターに巻き込まれ・・・,とかなったら,もう完全に冒険小説ですね。

 ところで,帯の「日本一運の悪いサラリーマン」っていう文句,『ダイハード2』のキャッチコピーに似ているような・・・

97/04/25読了

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