ロバート・シェクリイ『無限がいっぱい 異色作家短編集11』早川書房 1963年

 「知識の限界を理解するためには,それ相応の知識が必要なんだ」(本書「愛の語学」より)

 12編を収録した短編集です。『人間の手がまだ触れない』の感想文でも書きましたが,これもまた,この作家さんのお話作りの上手さが堪能できる作品集です。

「グレイのフラノを身につけて」
 NYに住む孤独な青年の元に現れたセールスマンとは…
 あらゆるものを「商品」にしようとする資本主義的欲望にとって,あらかじめ動機付けされた「自由意志」こそ,喉から手が出るほどほしいものなのかもしれません。そして「限界」「失敗」をも取り込んでいく貪欲さを描いたアイロニカルな結末がいいですね。
「ひる」
 アンソロジィ『宇宙恐怖物語』所収。感想文はそちらに。
「監視鳥」
 殺人を抑制するために,未然にそれを防ぐ“監視鳥”が全国に放たれた…
 この物語の「ミソ」は,“監視鳥”によってもたらされた災厄が,「機械の暴走」でも「人工知能の叛乱」でもない点にあるのでしょう。現在でもわたしたちは,初期設定があいまいだと,恐るべき「力」を持ってしまう似たようなものを持っていますね。それは「法律」と呼ばれています。
「風起る」
 暴風が絶えることのない惑星で,男は遭難してしまう…
 設定こそSFですが,主人公が直面する危機と,それを乗り越えようとする姿が,スリルたっぷりに描かれていて,海洋冒険もののSF版といった印象を持ちます。その上でのラストが苦笑させられます。繰り返される「8ヶ月」というのがポイントですね。
「一夜明けて」
 二日酔いで目覚めた男は,見知らぬ,そして危険な密林にいた…
 突然,主人公が投げ込まれる不可解な状況,しだいに記憶が蘇り真相が明らかになっていくプロセス…それだけだったら,わりと「ありがち」なのですが,さらにそこから,主人公に「ふたつの選択肢」を与えることでサスペンスを高めていくストーリィ・テリングは絶妙です。そして設定と密接に結びついた着地点,余韻のあるエンディング,と,本集中,一番楽しめました。
「原住民の問題」
 “社会不適応”の男は,ただひとり辺境の星に移住するが…
 アメリカ開拓の歴史をカリカチュアした作品です。「苦労は報われなければならない」という言葉は,たしかに立派なものかもしれませんが,それが狂信と転じるとき,他者への不寛容と無理解へと繋がることを示しているように思います。
「給餌の時間」
 彼が古本屋で買った本−それは『グリフォンの管理と飼育』だった…
 オチは,わりとよく見られるものですが,古本屋で見つけた奇書?が招く災難という,オーソドクスな「古本怪談」は,個人的に好みです(実体験とはしたくありませんが(笑))
「パラダイス第2」
 彼らが発見した地球型惑星は,戦争により廃墟と化していた…
 この作家さんもロバート・J・ソウヤーと同様,SFにおける「ミステリの効用」を十分に承知している作家さんですね。骸骨に埋もれた都市,誰もいない宇宙ステーション,と,「なぜ?」という問いを効果的に用いて,ストーリィをぐいぐいと引っ張っています。クライマクス・シーンのおぞましさもいいですね。
「倍額保険」
 時間旅行が可能な時代,保険金詐欺を企んだ男は…
 主人公は,いったいいかなる詐欺を企んでいるのか?という謎が,前半を引っ張ります(「保険金詐欺」というと,すぐに「殺人」と発想してしまうのは,何とも哀しい現代人ですね(..ゞ)。後半,SF的ガジェットの説明がやや不足している感じで,痛快感に乏しいのがちょっと難。
「乗船拒否」
 出発間際になって,乗員のひとりが新任の補充員の乗船を拒否した…
 「原住民の問題」とともに,アメリカらしい寓意に満ちた作品です。理屈によって人種的偏見が容易に覆らないのと同様に,周りから見れば不可解としか思えない理由によって偏見が取り除かれるという内容は,人種的偏見の「無根拠性」を露わにしているのでしょう。
「暁の侵略者」
 地球人ディロンは,暁の頃,その惑星に降り立った。侵略のために…
 「侵略ものSF」といえば,もっぱら地球人が襲われる方ですが,ここでは地球人が侵略者です。その地球人に,いかにも異星人らしい(?)能力を持たせることで,逆に,地球人の未熟さを描いているところは,なんとも皮肉めいてますね。
「愛の語学」
 愛する女性に「愛」を語るために,彼は,「愛の語学」を学びに飛び立った…
 知識と実践の乖離のカリカチュア,なのかな?^^;; さんざん理屈をこねくり回した上で,出てきた言葉の貧相さが,苦笑を誘います。

04/02/22読了

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