山口雅也『マニアックス』講談社ノベルス 2001年

 7編を収録した短編集。テーマは,タイトルにあるように「マニアックス」。ところで,「マニアックス」と聞くと,映画『フラッシュダンス』の挿入歌を連想してしまうのは,わたしだけでしょうか?

「孤独の島の島」
 孤島に住む漂流物コレクターの女性を訪ねたフリーライターの千尋が見たものは…
 散りばめられたペダントリィ,それらが,直接的にも間接的にも終局へ向けて収斂していく展開,現実とも夢ともつかぬ曖昧で,それでいて不気味さだけはしっかりと伝わってくるエンディング。ムチャクチャ好みの作品です。もしかして,わたし,この作者の本格ミステリより,こっち方面の短編の方が好きかもしれません。本作品集で一番楽しめました。ところで,孤島住まいでもなく,女性でもありませんが,福岡には漂流物コレクターが実際におられ,たしか漂流物に関する本も何冊か書かれていたかと思います。
「モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ」
 既読作品。感想文はこちら
「<<次号へつづく>>」
 パルプ・マガジンの作家に出会った少年は,現実と虚構を混同し…
 ラストの処理は,個人的にはいまひとつではありましたが,妄想癖の強い少年が,フィクション中の「レムリア星人」を殺そうと決心し,実行していこうとするプロセスは,「ああ,どこかで彼を止めてくれぇ!」と叫びたくなるほどの緊迫感があります。その上でのツイストも可。
「女優志願」
 スターのメイドを勤めるジュディは,女優になりたいと願うが…
 「悪魔との取引」「人を呪わば穴ふたつ」という古典的なモチーフを,凝った構成で上手にまとめています。ただ「女優」の回想シーンをもう少しコンパクトにまとめた方が,よりツイストが効果的だったのでは? などと思いました。ところで「トーキー」の時代になったとき,銀幕から姿を消した女優さんもけっこうおられるそうですね。
「エド・ウッドの主題による変奏曲」
 持ち込まれた自主製作映画を見る,ハリウッドの大物ふたり…
 作者自身の「マニアック」性が色濃く出ている作品ですね(笑)。「大作主義」のハリウッドとB(C?)級映画との関係を皮肉っているのかもしれませんが,ちょっとピンと来ませんでした。
「割れた卵のように」
 子どもの墜死が続発する団地で,“わたし”の妻は,ふたり目の出産を目前に控え…
 ミステリ的展開かな,と思いながら読み進めていくと,突如,わたしの好きな「××テーマSF」じみたテイストへ急転。「ぞくり」とする余韻を残す作品となっています。でも,最後の主人公の言葉は,なんか落語の「下げ」みたいな感じもします。
「人形の館の館」
 旧友を自分の屋敷に招いた“わたし”は,妻が何者かに狙われていることを相談するが…
 物語の途中,“わたし”が,屋敷の中を案内した上で,自慢の「ドールハウス」を紹介するのですが,両者の違いがすごく曖昧で,くらくらするような眩暈感を感じます。その,「現実」と「虚構」との混淆が,ラストの二転三転するツイストへと巧みに繋がっているところがよいですね。なるほど,これが,この作者の「密室に対する現在の考え方」なのか・・・

01/04/03読了

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