式貴士『吸魂鬼』角川文庫 1983年

 例によってエロとグロにあふれた,悪趣味全開のSF短編7編を収録しています。この作家さんに比べれば,田中啓文など,まだおとなしい感じ(笑)(まぁ,ベクトルが違うと言えば,そうなんですが)

「SF作家倶楽部」
 20××年,タイム・マシンで呼び出された3人のSF作家は…
 本編そのもののともに,作中,3人のSF作家が書いたショートショートが楽しめるという,サービス精神満杯の作品です。そのショートショートに現れる固有名詞を手がかりとしながら,作家の「正体」を探るあたりがおもしろく,さらにそれをひっくり返す設定がいいですね。凝った構成ながら,ラストはオーソドクスなSFとしてまとまっています。
「吸魂鬼」
 見慣れているはずの人間が,突如,別人になってしまったわけは…
 本人の自覚がないまま外見が変わってしまったり,「神隠し」に逢いやすい(?)少年のお話など,前半はおもしろいですし,また吸魂鬼が魂の表皮をかじったことで,言語障害を起こすという発想もいいのですが,両方の結び付け方がやや強引な感じがしますね。表題作としてはちと物足りませんでした。
「エイリアン・レター」
 「やさしいママへ,僕は新任地の“地球”で巧くやっています…」
 地球に“赴任”した異星人が,故郷の星へ送った手紙,という体裁の作品。その一見まっとうな文面の背後に,なにやら隠されていることは十分に予想がつきますが,少しずつ「ずれ」を描き出し,ラストで「真相」を明らかにする手法が上手に使われています。とくに「ワインの入った四輪荷台」の「正体」はショッキングです。リカーショップの店先などで,ワインがしばしばそのような荷台に載っている「見慣れた光景」を,鮮やかに反転させています。本集中,一番楽しめました。
「海の墓」
 「朝」「昼」「夜」と題された3編のショートショートを収録しています。いずれも「海と少年」がモチーフ。「昼」は少々陳腐な観がありますが,「朝」と「夜」は,健康的な日常的な風景が,おぞましいラストへと変貌するギャップが楽しめます。文体を意図的に詩的にしているところも,その落差の効果を高めています。
「カメレオン・ボール」
 UFOが落とした不思議なボール。それはまるでカメレオンのように色を変え…
 これまでの作風から,最後にツイストを期待して読んでしまったせいか,ラストはちょっと肩すかしを食ったようなところがありました。しかし,淫靡で背徳的な「異形の愛」という点では,それなりに不気味な迫力を持った作品です。
「触覚魔」
 超能力者の“おれ”は,指先からのエクトプラズムで女体をまさぐることを覚え…
 SFの基本的なパターンのひとつに,ある発送を起点としながら,そこから事態をエスカレートさせていく,というのがあります。筒井康隆などが得意とする手法です。本編もそのパターンを踏襲するものですが,そのベクトルが「エロ」と「グロ」に向いているところが,蘭光生というポルノ作家としての「顔」を持つこの作者の持ち味なのでしょうね。などと書きながらも,さすがにちょっと,これはキツイ…(ーーゞ
「シチショウ報告」
 神様との賭に勝った“おれ”は,約束通り,7回の転生を繰り返すことになり…
 神様がチンチロリンをするというのもぶっ飛んでますが,なぜするのか?という屁理屈も楽しいですね。「繰り返される生」を描きながら,じつは「繰り返される死」を描いているのですね。そのへんの悪趣味さもこの作者ならではのこと。とくに「有名スターになりたい」という願いがかなえられた,アイロニカルな「第六の生」が苦笑させられます。ラストはややバタバタした感じで,個人的趣味としては,メタのまま幕引きの方が良かったのではないかと思います。

02/09/03読了

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