ガストン・ルルー『ガストン・ルルーの恐怖夜話』創元推理文庫 1983年

 8編を収録した短編集。うち5編−「胸像たちの晩餐」「ビロードの首飾りの女」「ヴァンサン=ヴァンサンぼうやのクリスマス」「ノトランプ」「恐怖の館」−は,5人の引退した老船乗りが経験した綺譚を,とある酒場で披露する,という体裁になっています。

「金の斧」
 アンソロジィ『心やさしい女』所収作品。感想文はこちら
「胸像たちの晩餐」
 隣家に住む女が,客を招いてパーティをしているはずなのに,客の姿は見えず…
 タイトルと,オープニングの光景から,「魔女もの?」という雰囲気を匂わせておいての,意外な真相が楽しめます。そのうえで,魔女よりももっと不気味でおぞましい事実を浮かび上がらせる奇想がいいですね。ただ酒場でウィル船長の話を聞く人々の対応が,少々,雰囲気を壊しているような…
「ビロードの首飾りの女」
 首を切られたはずなのに生きている女は,傷を隠すためにいつも首飾りをしていると言われ…
 巧いですね,この作品。まずは「死んだはずなのに生きている女」という奇怪なシチュエーションが語られ,その上で,首飾りを取ったために,首が落ちて「本当に」死んでしまったというセリフ。いかにも怪奇小説的な展開を盛り上げておいての,鮮烈でグロテスクなツイスト。本集中,一番楽しめました。
「ヴァンサン=ヴァンサンぼうやのクリスマス」
 ヴァンサン=ヴァンサンは,子どもの頃に両親が殺された。しかし犯人はいないという…
 ヴァンサン=ヴァンサンの両親がとる不可解な行動。しかし文中,それらについてまったくと言っていいほど説明がありません。「はて????」と思って読み進めていると,ラストでそれが「ストン」と落ち着くところは,さすがにミステリ草創期に人気を博した作家さんですね。
「ノトランプ」
 美女オランプには12人の求婚者がいた。1番目に選ばれた男は,しかし,急に死んでしまい…
 結婚した相手が,次から次へと死んでいくという,一種の「魔性の女」的なストーリィです。オランプは,本当に夫を殺したのか? それとも犯人は別にいるのか? その謎がストーリィを引っ張っていきますが,ラストの謎解きがあまりスムーズな感じを与えていないのが,ちと残念。
「恐怖の館」
 かつて旅客を殺して金品を奪っていたという宿屋。それを「売り物」にした宿屋に泊まった男女は…
 悪趣味が売り物になるというのは,古今東西,いずれも変わらないんですね(笑) 読者を安心させておいて,最後に「すぅ」と背筋を冷たくさせるのは,怪異譚の常套とは言えば常套ですが,「描かれざる真相」という,読者の想像力を刺激するやり方は好きですね。
「火の文字」
 奇妙な噂のある屋敷で,一晩,過ごすことになった“わたし”たちが,屋敷の主から聞いた話とは…
 「悪魔との契約もの」です。ギャンブルというのは,勝つかどうかわからないがゆえに,勝ったときの喜びがあるのでしょう。あらかじめ「勝ち」を約束されたギャンブルは,すでにギャンブルではない,というお話。岡崎二郎の短編を思い出しました。
「蝋人形館」
 肝試しに,蝋人形館で一晩過ごすこととなった男が見たものは…
 怪奇趣味をたっぷりと醸し出しておいて,ラストで「理」に落とすのは,この作者のひとつのパターンなのでしょう(本集に収録された作品いずれもそういった体裁です)。オチはややシンプルで物足りないところもありますが,すっきりとした短編に仕上がっています。

03/01/05読了

go back to "Novel's Room"