長島良三編『心やさしい女 フランス・ミステリ傑作選(2)』ハヤカワ文庫 1985年

 サブ・タイトルからもわかりますように,フランスのミステリ短編10編をおさめたアンソロジィです。「(2)」とあるように,「(1)」として『街中の男』というのがあるようですが,そちらは未読です。
 サスペンスフルな展開とラストのツイスト,「策士,策に溺れる」的テイストは,小池真理子に近い作風のものが多く(というか,彼女の作品がフランス・ミステリの影響を色濃く受けているのかもしれませんが),小池作品が好きなわたしとしては,楽しめる作品が多かったです。
 気に入った作品についてコメントします。

ノエル・カレフ「ロドルフと拳銃」
 仲間外れにされた幼いロドルフは,殺人者とある“取引”をして,拳銃をあずかる…
 殺人者から逃げるロドルフ,そしてロドルフと殺人者を追う警察と母親,それぞれの追走劇には緊迫感があります。とくに,ルーブル美術館の中,点滅する明かりの元で,ロドルフが逃げまどう映像性豊かなシーンは秀逸です。ラストは「お約束」といったところでしょう。
トーマ・ナルスジャック「階段に警官がいる」
 15年間の屈辱をはらすため殺人を犯した“私”。しかし警察の目が周囲に光りはじめ…
 1949年初出ということで,ネタ的にはちと古い感じがするのは仕方がありませんが,ぐいぐいと追い込まれる主人公の描写が迫力があるので,アイロニカルなラストとの落差が楽しめます。
クロード・アブリーヌ「ピエルトモンの夜」
 親しい叔母と別れたさびしさを癒すため,知り合い夫婦の家を訪れた彼女は,そこで…
 主人公の見た幻想的なシーンの背後に隠された,おぞましい“真相”が明らかにされるラストがショッキングです。その提示のさりげなさもいいですね。きっちりとまとまった好短編です。
ローラン・トポール「すてきな片隅」
 少年が見かけた男。彼はロープをいじりまわしており…
 ブラック・ユーモアというのともちょっと違うようにも思いますが,ラストで苦笑いさせられる作品です。短編というよりショート・ショートといった感じ。
カトリーヌ・アルレー「心やさしい女」
 夫の帰りを待つ妻の元にやってきた無法者。はからずも彼を殺してしまった妻は…
 普通の田舎の主婦としての日常の仕事と同じように淡々と死体を処理していく主人公の姿が,不思議な手触りを生みだしている作品です。タイトルの真意が明らかになるエンディングは,にやりとさせられます。
ガストン・ルルー「金の斧」
 保養地で知り合った品のいい老夫人。せっかくプレゼントした「金の斧」を目前で捨て去った彼女は,その理由を語りはじめ…
 書かれた年代が古いと,その描写や真相,動機などがいまひとつピンと来ない場合も多いですが,逆にその時代に対する知識の欠落が驚きをもたらす場合もあるのではないか,などと考えさせる一編です。ラストで意外な真相が明らかにされ,冒頭で示された謎ーなぜプレゼントを捨てたのか―と結びつくところは,そんな驚きをわたしにもたらしました。

98/08/25読了

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