赤川次郎『拒否する教室』小学館文庫 2002年

 『日の丸あげて』に先行する「当節怪談事情」シリーズの第1集です。4編を収録しています。

「拒否する教室」
 アメリカからの授業視察団を迎えるため,教師の須崎は一計を案じ…
 幽霊譚といってしまえば,そうなのですが,むしろその幽霊が出てくるまでのプロセス−主人公の教師須崎や,優等生木下の心の奥底に眠る狂気が,少しずつ臨界点を超えていくプロセスにこそ,本シリーズが持つ「当節」としての持ち味と,それゆえの不気味さがあるのでしょう。ところでラスト・シーン(ネタばれ>死んだ須崎を生徒たちが追悼するシーン),一見すると心温まる感じもするのですが,もしかすると「教師」と「生徒」とは永久に理解しえないという皮肉にも見えてしまうのは,わたしの心が歪みすぎているからでしょうか?(..ゞ
「閃光」
 不倫現場を写真に撮られた政治家は,その夜,事故死した…
 カメラのフラッシュや自動車のヘッドライトといった「閃光」をキーワードにしながら,一方で,それが怪異を見るきっかけとして用いつつ,その一方で,結末へと上手に結びつけていくことが,やはりこの作者ならではのものですね。母親の「娘を愛している」という最後の叫びは,それまでの酷薄な言動から推すと,とても信用できませんね。だからこそ,ラストの悲劇にアイロニカルな味わいが生まれてくるのでしょう。
「魅せられて」
 連続殺人犯と面会することになったアイドル・タレントは…
 設定や展開にやや無理があるかなぁ,という気もしますが(とくに「公開現場検証」とか),それを気にしなければ(笑),スピード感あふれるホラー・サスペンス言えましょう。つくづく幕引きの巧い作家さんだと思わせるラストが良いですね。
「千一夜」
 萩原の元に毎晩かかってくる電話の内容は…
 タイトルにあるようなアラビアン・ナイトというより,むしろ現代版「牡丹灯籠」といったオープニングですね。不可思議な電話により狂っていく男を描きながらも,そこに,ルリ子という男に思いを寄せる同僚を加えることで,ラストに思わぬツイストを仕掛けています。同じ死者でも,遙か以前に死んだ者よりも,死んだばかりの者の方が強いのかもしれません(「生命力が強い」という言葉は矛盾しちゃいますが…)。本集中,一番楽しめました。

03/09/26読了

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