二階堂黎人『クロへの長い道』講談社文庫 2003年

 ミステリ史上,(おそらく)最年少の私立探偵(ただしノーライセンス)幼稚園児渋柿信介(6歳)を主人公とした連作短編集。『私の捜した少年』に続く第2弾です。4編を収録しています。

「縞模様の宅配便」
 公園で遊んでいる信介が見かけた奇妙な宅配便。その裏に隠された真相とは…
 この作品のメイン・トリック,どこかで読んだことがあるように思うのですが,思い出せません。ですからミステリ的にはちょっと,という感じですし,ルル子の「活躍」も少々デフォルメが過ぎる観もありますが,ひさしぶりに再会した「シンちゃん」の相変わらずの「乗り」を楽しみました。「ママ,今日ボクね,御飯食べたら,リコちゃんと公園で遊んでくるね!」……私は午後のスケジュールを告げた」に爆笑。それと,信介がふとつぶやく子どもらしい一言が,のちに重要な伏線として効いてくるところはいいですね。主人公の設定をうまく活かしています。タイトル元ネタ:ロス・マクドナルド『縞模様の霊柩車』
「クロへの長い道」
 行方不明になった犬クロの捜索を依頼された信介は,街をひとり彷徨う…
 失踪人捜索の依頼,探偵の調査で明らかにされる錯綜した人間関係,そして事件の奥に潜む家庭の悲劇…ハードボイルド・ミステリ,とくにロス・マクドナルドの作品に出てくるようなコテコテのシチュエーションを,「犬」に置き換えることで,巧みにパロディ化しています。とくに犬博士との会話は秀逸! しかし,そういったパロディ路線を行きながら,ラストでの本格ミステリ的なツイストがじつに鮮やかです。伏線の回収もしっかりしています。本集中,一番楽しめました。タイトル元ネタ:ライオネル・デヴィッドスン『シロへの長い道』(でもこれって,ハードボイルドというより冒険小説ですが^^;;)
「カラスの鍵」
 信介が出演するクイズ番組の撮影直後,テレビ局で殺人事件と宝石盗難事件が発生し…
 「知らないとわからない系」トリックで,どちらかというと「二階堂蘭子シリーズ」の方がマッチするのではないでしょうか。このシリーズの持ち味が,いまひとつ活かされていないように思います(まぁ,現実の殺人事件では,信介のコミットの仕方も限られるでしょうからねぇ)。小ネタですが,「アルファベットの最後の文字」のクイズは,けっこう好み(笑) タイトル元ネタ:ダシール・ハメット『ガラスの鍵』
「八百屋の死にざま」
 イグアナ捜しを依頼された信介は,そこで不可解な密室殺人に遭遇する…
 イグアナ捜しと密室殺人,ふたつのネタを,やや強引に結びつけたようで,1編の作品として見ると,まとまりの悪さを感じます。イグアナ捜しは,もう少し膨らませるにしろ,これだけでも十分な好短編になるのでないかと思いますし,また密室殺人の方は,信介という「視点の制約」がない方が,よりディテールを書き込めて,ネタ的には重厚な「怖い」作品に仕上がるのではないでしょうか。どちらも魅力的なネタだけに,ちと残念。タイトル元ネタ:ローレンス・ブロック『八百万の死にざま』

03/03/11読了

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